大相撲殺人事件 (文春文庫)
2004年に角川春樹事務所からハルキノベルスとして出たものの文庫化。
「大相撲」の世界を舞台としたギャグ・ミステリである。「」を付けたのは、現実の大相撲とはかなり異なっているためだ。外国人のための「部屋」があったり、裏の世界が…。
短編をつないでいって、最後に大きな謎が解けるという形式。
個々の短編は、それぞれが密室とか嵐の山荘とか不可能犯罪のパロディになっていて楽しい。馬鹿馬鹿しいトリックもあり、ちゃんとした謎解きもあり、趣向もさまざまだ。
徹底的に相撲界を茶化しており、明るく笑える一冊であった。
真面目な大相撲ファンにはお勧めできないかも。
人の子イエス
扉裏の記述によりますと、本書がニューヨークではじめて出版されたのは、1928年です。80年以上も前の書物を邦訳し出版してくださった、小森 健太朗さんとみすず書房さんに対し心からの謝意を表したいと思います。
本書は、聖書に登場する人物による、仮想の「証し」集といったような趣向の内容を持っています。洗礼者ヨハネ、マグダラのマリア、ザアカイ、バラバ、ルカ、マタイ・・・等々、さまざまな人物が語るイエス・キリストについての思い出話が、ジブラーンの筆致によって豊かに描かれています。
ジブラーンのイマジネーションに拠るところが大きいため、必ずしも聖書に準じた内容ではない部分もあるかと思いますが、本書に収められている一つひとつの「証し」を、当時イエス・キリストに出会った一人ひとりのありのままの物語として、今もそっと大切にしておきたいなぁ・・・読み手にそう思わせてくれる素敵な本だと思います。
ターシャム・オルガヌム(第三の思考規範)―世界の謎への鍵
般若心経は、「是ノ諸法ハ空相ナリ」と説く。二元性を超えた智慧である無分別智「般若」とは何か。この本によって、正統的仏教の解説以上に、「般若」の驚くべき意味を通常の思考によって捉えられる限りで明らかにするだろう。もとよりこの本の主題は哲学であって、仏教でも「般若」でもない。しかし、その内容を要約するならば、禅の公案集である無門関の第29則「非風非幡」となるだろう。その公案は次のとおりである。
「六祖〔慧能禅師〕はある時、法座を告げる寺の幡が風でバタバタ揺れなびき、それを見た二人の僧が、一人は『幡が動くのだ』と言い、他は『いや、風が動くのだ』と、お互いに言い張って決着が着かないのを見て言った、『風が動くのでもなく、また幡が動くのでもない。あなた方の心が動くのです。』」(以上、岩波文庫「無門関」西村恵信訳注123頁から引用)。
この本の作者は、この公案について知らなかったであろう。しかし、この本は、修行に基づく特別な能力によらずに、ただ通常の言語と思考を限界まで使用することによって、「般若」を直に表現したこの公案の意味に非常に接近している。少なくともこの本と比較すれば、普通の禅の言語的な解説は稚拙で妄信的にすら思える。
「般若」、般若心経及び禅について、また神秘哲学について少しでも真剣な関心を持つ人であれば、この本は必読であるといえよう。