バガボンド(32) (モーニングKC)
正直、バガボンドは理解できない作品になっていた。
又八やおつうの心情理解はまだしも、武蔵が悩む場面は
「また哲学話かよ」とうんざりしていた。
井上さん自身が何を書いているかわかってないのではとさえ思っていた。
しかし、一刀斉の「感じるべきは楽しいかどうかだ」という言葉と、
石舟斉の「もっと笑え」という言葉に、これまでの哲学の答えが詰まっていたのではと思う。
刀と一体化したかのように、
感じるままに斬る動作を行うことが楽しくて仕方がなかった幼少期の武蔵。
その時の武蔵は、素直な心のまま万物万人を受け入れることができるのならば、
「本当は誰も恨まなくていい」とおぼろげに感じていた。
しかし年を重ねるにつれ「我」に捉われ、
全他者より優れていることの証明「天下無双」にこだわってしまった。
その結果生じた他者への恨み、怒り、恐れから、
動きのこわばりと無用な殺気、戦い、そして死を生み続けた。
我を他者と比較し、負の連鎖を生む。
それは密かに武蔵と「自分」を比較し、
嘘や逆恨みを生み続けた経験を持つ又八も同じだったのではと思う。
武蔵が剣の二大巨星の言葉から過去を振り返り流した涙は、
単純に無用な殺生を積み重ねてきた事を後悔したのではなく、
「我」に捉われる前の、本来の自分を思い出せた喜びや、
今まで悩み苦しんできた答えが見つかった解放感がいりまじった、
とても複雑な涙なのではないかと感じた。
そして最後の武蔵が小次郎を思うヒトコマに、
又八がかつて「小次郎といると、俺は俺でいいと思えてくる」
と言ったセリフを思い返した。
武蔵もまた、言葉をもたず感覚のまま生きる小次郎に、
自身を含めた人間の素直な姿を見出し、彼を「友」と呼んだのではないかと思う。
武蔵に感情移入するのは難しい(というか無理?)
当然上記に書いた私の推測は、別の読者のとらえ方とは全く違うかもしれない。
しかし、「我」にとらわれるという共通点をもって
武蔵の心情を懸命に同調させようとしたことで、一つ自分が納得いく推測をやっとたてられた。
これまで哲学に感じていた武蔵の自問自答達が結集し、
大きな一つの答えとして表されたと感激した。
私の中では文句なしの星5つです。
長文失礼しました。
追記:改めて読み直し、少年時代の武蔵が本当の自分は〜と言っている内容は、
中村天風さんがおっしゃっている内容と似ていると感じました。
井上雄彦先生のすごさを改めて感じました。
バガボンド(31)(モーニングKC)
まさかマンガで泣くなんて・・・予想外でした。 私は素晴らしい画と誰もが没頭してしまうストーリーを創る井上さんの一ファンです。 この巻の完成度は素晴らしいものでした。個人的に、一巻からずっと登場してきた又八の節目の巻だと思います。 この話には、母親の死という誰もが経験する出来事が描かれています。それを通して、今までの自分を変えようとする又八の必死な姿には、非常に心を打たれました。 そして何と言ってもお婆、彼女の本当の優しさというか、子を思う気持ち、そして最後のお婆の笑顔には何よりも感動しました。 この話は、誰が読んでもきっと感動するはずです。 こんなマンガは見たことない
新平家物語 (英文版) - The Heike Story
吉川英治版『新・平家物語』の短縮英語訳。どれほどの短縮具合かというと、元は文庫本で全16巻の話、と言えば推して知るべし。平清盛の出世話に焦点が絞られて訳出されております。英訳の質について喋々出来るほどの英語力はありませんが、原文の方が美しく感じるのは、実際そうなのか、我が母国語が日本語だからというだけのことか。ともあれ、歴史小説好きで英語が読める方、お薦めです。歴史小説で馴染んできたあれやこれやの用語が「英語ではこう来るか〜」とホウホウ面白がりながら読めますし、外人に日本史の話をする時にも役に立つかも(←無理やりか?)。
ちなみに私は吉川平家を中学生の頃に図書館から借り出して読みましたが、鮮明に記憶している下りがあります。比叡山の悪僧が神輿を担いで都に強訴に押し入る場面。悪僧に立ち向かうは平清盛。「神輿に矢を向けるとは血へどを吐くぞ!」と脅された清盛は「血へど、吐いてみたいわ!」と返してシュッと矢を放つ。中学生の私は「キャー」と興奮して、ここはマイ名場面となりました。英訳を見たらば、「血へど吐いてみたいわ」は「So be it!」となっておりましたです。「ままよ」ってな感じですか。ガッカリするよな納得するような。古典級の小説の翻訳は大変ですね。
人形歴史スペクタクル 平家物語 完全版 DVD SPECIAL BOX
NHK連続人形劇の歴史は長く、古くは「ひょっこりひょうたん島」、「新八犬伝」や「プリンプリン物語」など懐かしく思い起こされる方も多いのではないでしょうか。人形の魔術師川本喜八郎氏による連続人形劇としては、「三国志」が有名でかなり前からDVD化されていましたが、川本人形劇ワールドの全国の多くのファンが待ち望んでいた「平家物語」がついにDVD化され感謝!、感激!です。人形劇でありながら観ているうちに人形であることを忘れてしまうほど完成度が高い。この「人形歴史スペクタクル平家物語」は、吉川英治が描いた源平動乱の人間ドラマを人形劇化した、大人の鑑賞に堪える連続人形劇の最高美的到達作品と言えます。
宮本武蔵 DVD-BOX
吉川英二の宮本武蔵は子供の時から今に至るまで何度も何度も読み返しいつも感動するのです。
この映画は原作の武蔵と三船敏郎のLooksが完全にマッチしています。本を読んでいて武蔵といえば三船敏郎の表情、動作、寡黙、朴訥とした優しさが浮かびます。三船以外の武蔵は今の所誰もいないのでは。
吉岡伝七郎との決闘で、暗い三十三軒堂の幅広い外廊を静かに決闘場所へと歩む武蔵。。。静かなだけに思わず寒気がするほどゾッとしました。
一乗寺下がり松での決闘は原作と少し違っても、武蔵はあぜ道を後ろ向きに歩きながら逃げる、何十名以上に及ぶ吉岡の門弟は田んぼのぬかるみに足を取られて思うように武蔵に追いつけない、だから武蔵はあぜ道を自分に向ってくる一人ずつを相手にすれば良い。作戦が上手な実際の武蔵を表していました。
巌流島の決闘は最高! 日の出を背に小次郎と闘う三船武蔵の豪快で真に迫った決闘場面に剣道を知らない人でもきっと感激すると思います。実際の武蔵は五輪書を執筆したり、明石市を設計したり、彫刻は重要文化財です。彼の墨絵に至っては物凄い覇気を感じます! USAでは三船の武蔵だけが知名で今の年代にも大勢ファンがいます。三船以外の武蔵は考えられない。このDVDのレビュ−が何と133人で殆んどが4−5スター。