矢代秋雄:ピアノ協奏曲/交響曲
矢代秋雄は、日本の作曲家の中では、最も「民族性」を感じさせない、「近代的」で洗練されたスタイルを確立している部類の人物であろう。極めて綿密に曲がつくられており、吉田秀和がどこかで用いていた対比を用いれば、武満徹が「詩人」であるとすると、矢代秋雄は「職人」である。ここに集められた二曲は、「協奏曲」「交響曲」という伝統的なクラッシック音楽の形式と、緻密な管弦楽法を用いた、「職人的」作曲家の傑作である(といっても、この人に「傑作」以外には作品がないのだが)。しかし驚くべきなのは、そこにみずみずしい情熱や感情が豊かに盛り込まれているのである。日本の作曲家の水準は、世界的に見ても決して低くはないと思う。この二曲はそのことを実証しているが、なぜか日本人は自国の作曲家に冷ややかなのは残念である。
演奏もすばらしい。筆者はだいぶ前にN響で、ギーレンと中村紘子のコンビでピアノ協奏曲を生で聞いたことがあるが(マーラーの7番とのカップリングという興味深いプログラムだった)、その熱気あふれる演奏に鮮烈な印象を忘れてはいない。ここでの演奏は、精緻でしっかりとした構成観の中に、熱気も感じ取れる名演である。
世にも奇妙な物語~15周年の特別編~ [DVD]
2006年3月に放映された「世にも奇妙な物語 15周年の特別編」。タモリの係わる番組はどれもとても長寿だ。それはやはり他の番組にないなにものかを常に持っているという証明でもある。
実際に作品を観ると、日本の若手放送作家には力がある人がたくさんいるな、と感じる。主たる4編はどれもいい。俳優もカメラ・ワークもいい。優れた脚本の持つスピード感を保ったままでイイ味出してる。僕も特に『奥さん屋』が良かった。いつまでも長寿を保って続けて欲しいシリーズです。
劇場版 魔法遣いに大切なこと プレミアム・エディション [DVD]
中原俊監督といえば何と言っても「櫻の園」(つみきみほの方)「12人の優しい日本人」で知られる。それ以前のにっかつロマンポルノ作品にも名作が多い。しかし最近は長いことスランプかな、という作品が多く、本作もあまり期待せずに観たのだが、どうしてどうして、久々の好編に仕上がっていた。特に主演ふたりの瑞々しさが抜群だ。映画が初めての山下リオは、最初に組んだのが中原組でよかったね。岡田将生はこのところ凄く良くなってきた。次回作も楽しみである。それから太賀。「青い鳥」でのいじめ役が印象深かったのだが、本作では180度変わってのガクラン+メガネ姿。本当は岡田と並べても絵になる男らしいルックスなのに、このあたりが潔い。魔法遣いが公認化されて、霞が関が管掌している、というのも「何じゃそりゃ」的な背景だが、ホンと演出、役者の上手さがそういう考え方を吹っ飛ばした。導入部で「ああ、日本に魔法省があるんだな」とスッと入っていけたからね。冒頭とラストの北海道の「絵」も効いているだろう。中原監督が当初描いていた宮崎あおいバージョンも観たかったけど、癒し系のいい作品です。星4つ。