田中慎弥の掌劇場
不思議な触り心地のする、黒と黄が印象的なカバー。装釘もどことなく妖しく美しい本文を想像させる。
本書は田中慎弥氏が毎日新聞西部本社版に2008年から2012年の1月まで連載していた掌編小説を編んだ物である。
新聞連載のため、時事を取り込んだ作品も多い。
例えば《扉の向こうの革命》《感謝》などは震災を取り扱い、《男たち》では作者曰く『当時の政治状況を拝借』して氏が芥川賞のスピーチで言及した都知事や、乱読した作家たちが時代を超えて雑談に勤しむ姿が描かれる。《客の男》には当時プロ入り後間もなかったであろう、例の「王子」と思しき人物も登場する。
『共喰い』に見られる地方色の強い濁ったストーリーが特徴的だと思われる作家だが、この本では様々なモチーフから物語を創り出していく氏の姿勢を感じ、新たな魅力に触れることが出来るのではないだろうか。
文藝春秋 2012年 03月号 [雑誌]
芥川賞受賞作品の「共喰い」(田中慎弥)と「道化師の蝶」(円城塔)の全文が収められているため、今号は大変お得感が強い。
両者へのインタビューも掲載されているが、特に田中氏は印象に残る人物。
私と同い年(72年生まれ)で就労経験が皆無といった変わり者。
西村賢太氏と同様に今後も注目していきたい作家だ。