檀 (新潮文庫)
沢木さんといえばニュージャーナリズムの旗手というイメージが長くあったし、多くの人が彼の本を手に、世界を旅した事と思う。しかしこの本はそういう読者は手に取らない方がいいかも知れない。檀一雄という作家を妻の視点から辿っていくのだが、その背後には沢木さんの冷静な視線があり、それであるがゆえに、実は誰の思いにも偏ることなく檀とその妻の、特異でありながら、その実ごく普通にも思える愛情の交歓が見られる。これは文学として見事な傑作だと思う。
ぼのぼの [VHS]
何でも知りたがるラッコのぼのぼのを中心に織り成す、癒し系アニメ「ぼのぼの」。このビデオはそのぼのぼのが初めて映画になったときの作品です。
内容は、「森にでっかい生き物がやってくる」という噂が流れるのですが、それがどんなものだか想像できないぼのぼのは、アライグマくんに連れられてそのでっかい生き物を見にいく、というストーリーです。
ただ、後に放送されたテレビとは違う声優陣なので、テレビを見てからこの作品を見ると声のギャップに驚いてしまうかもしれません。
火宅の人 [DVD]
深作欣二作品の、人間の業すら吹き飛ばす色鮮やかなドンガラガッシャン感が、主人公桂=檀一雄の衝動パワー炸裂の暴走人生にぴったりマッチした強力な作品。
世間体を気にするような普通の人の感覚からすればダメ男なんだけど、衝動に任せて行動し、本気で泣いて笑って怒って青ざめて、それをあけっぴろげに小説にして、綱渡りながらも妻子も愛人も養えるくらい稼ぐところは、ある意味甲斐性のあるどてらい男なんじゃないの?生きる力ありすぎ。
主人公の役は、通常の精神状態では演じ続けることが非常に辛いと思われるが、緒形拳がさまざまな修羅場をやけくそパワーで演じ、しかも起伏する感情を丁寧に表現していてすごい。締切デッドラインにいながらも妊娠を告げた愛人が家を飛び出すと、焦る編集者をいなしながらも「桂子さーん!!」と叫び続けるところがもうめちゃくちゃで最高。一方で子供に食事をさせるシーンの暖かい父親ぶりも印象的。桂はマルチタスクすぎる。
また主人公を取り巻く女たちも、むちゃくちゃな桂を愛してしまう女たちも世間体から超越していて魅力的。
いしだあゆみ…不幸すぎる正妻役だが、夫を愛しており絶対に別れない、女の業という妖怪的なものを表現しすぎ。嵐の夜のドタバタな状況に突然冴え冴えとした顔で家出から帰ってくるシーンは爆笑!自転車に乗ってるラストシーンはカワイイ。
原田美枝子…欲望に任せて生きる、ある意味主人公と似ている女。ラブラブのシーンも修羅場のシーンも激情的で緒形との演技合戦が見もの。でも若いころのバカさ、奔放さは、桂との日々が潮時に近づくにつれ、沈んでゆくところが女らしくて切ない。おっぱいは想像を超える迫力。二人の盛り上がりにこのカラダがアクセルをかけていてよかった。
松坂慶子…しっとりした女の色気、無邪気なようで理由あっての人を赦す優しさ、確固たる意志をもって人生を歩む強さ…桂の現実逃避・傷心の旅の道連れとして最高の女!椅子に座りある人物からの電話に静かに話すシーンの美しさが素晴らしい。旅の途中、寒いといってあーんあーんと泣いて桂に甘える姿に父親不在が見えて切ない。傷ついて疲れた男にとって理想的な女なんだけど、生きていくため大人の人生の選択をして男と別れるところがこれまた切ない。
2時間強があっという間、だけど正直に生きる男と女たちに、本心を隠して生活する人間には失われた、本来の人間の生命力を見て胸を打たれる。爆笑シーン多いけどね。
美味放浪記 (中公文庫BIBLIO)
本書は前半が国内各地、後半がヨーロッパ、アジアなど世界各地の食べ歩きの本である。といっても有名料理店を巡るのではなく、そこに住む人が普段食べるようなものを紹介しているので肩がこらない。その文章には、作家として、また日頃料理をつくることを愛してやまない著者のエスプリがちりばめられていて、思わず自分もその地に旅行してみたくなる。本書とあわせて、同じ著者の「檀流クッキング」をお読みになることをお勧めする。
檀流クッキング (中公文庫BIBLIO)
70~80年代の男たち、あるいは、男の子たちに、「料理とはすこぶる知的なものであり、延いては、料理の出来る男は格好良いのではないか。」という強烈な意識革命をしてくれたのは、この檀一雄の『檀流クッキング』と、曽野綾子の『太郎物語』の両作品ではないでしょうか。残念ながら、最近、男の料理に対してこれ程の影響力を持った作品が見当たりません。今また、読み返してみるべき価値のある作品ではないかと思います。この『檀流クッキング』には92種類の料理が紹介されていますが、細かな手順や分量などは大胆にもほとんど無視されています。この本は、細かな手順や分量だけをきちんと守れば間違いなくひとつの完成品が作れるというマニュアル本などではなく、押さえるところだけを押さえれば、後は自由自在にやってしまえばいい。そうすれば、ここで紹介されている92種類の料理(世界)が、200や、300の料理(世界)に膨らんでいくんだという事をとても楽しげに教えてくれる。そういう本だと思います。