チャイナ・インパクト
現在の中国の様子が、具体的な数字を挙げてわかりやすく書かれている。
経済の詳しい事がわからなくても、特に苦労なく読め、またわかりやすい。
これから中国に関係のある仕事をする可能性がある場合は必読と思われる。
だが、中国と日本を比較する際に、人口比を考えずに比較している所は疑問が残る。
例えば、中国で500万人都市がいくつもできたが日本では100万人都市も出来ていない。などというくだりだ。
中国の人口は日本の12倍。そこを考慮して欲しいと思う事が少なくない。
また、私見が多いため、どうも自分の周囲で起こっている事を中心にして書かれているようにも見えてしまう。
しかし、経済本にしては読みやすく、かつ面白い本だ。
チャイナ・インパクト
『チャイナ・インパクト』といえば大前研一氏の書籍が有名だが、本書も決して名前負けしていない良書。
よい点は以下のとおり。
1.広いカバレッジ
300ページ弱でありながら、リーマン・ショックに対する中国の財政措置とV字回復の実像に始まり、
筆者が『政経一体システム』と呼ぶ政治過程の分析、ホットマネー、不動産バブルと地方政府融資、
人民元を巡る米中のせめぎあい、今なお残る金融規制の話など、多くのトピックをバランスよくカバーしている。
中国の経済、特にマクロ経済に関する話題はこれ1冊でほぼ網羅的によく理解できる。
2.現役外交官ならではの視点
一般の評論や所謂中国警戒論者の著作では、中国=共産党と軍の一枚岩と言う単純な言説が語られることが多い。
しかし、本書では、よりミクロな各組織、個人レベルまで分析レベルを掘り下げられており、これは日々中国の政府当局とやり取りしている外交官ならではの視点だと思う。
例えば、党の人事の解読の仕方や、経済政策立案における発展改革委員会の地位の高さ、人民元切り上げ問題を巡る商務部と人民銀行の対立などの話は面白い。また、人民銀行の権限の弱さなども、見落とされがちだが重要なポイントだと思う。
3.詳細な記述と読みやすさを両立
リーマン・ショックへの中国の対応や人民元の部分などは、何日に何が起きたかまで含めて細かくフォローされている。
また、中国企業の日本企業への出資を纏めた表や、巻末の経済政策決定に関するカレンダーなど、レファレンスとして有用な資料も収録されている。
その一方で、財務省職員が書いたとは思えないほど読みやすいので、最初の数十ページで筆者の文体に慣れれば後は一気に読めると思う。
上記の理由により、この内容で1890円ならば買って損はないと思う。あえて言えば、最初にイントロダクションとして本全体の構造を説明する部分があればより読みやすかったかと思う。筆者は現在も中国に駐在中のようなので、引き続き『政経一体システム』や発展改革委員会についてのより深い論考が世に問われることを期待したい。
なお、大前氏の本と合わせて読むのも面白い。また、本書を読んで、別の視点として中国により批判的な見方を示している本に興味をもたれた方には、チャイナ・リスクに焦点を当てた、『チャイナクライシスへの警鐘 2012年 中国経済は減速する』や、80年代以降の経済改革の実態について通説とは異なる見方を提示した"Capitalism with Chinese Characteristics"も面白いのではと思われる。