墨東綺譚 [DVD]
借りてみたけど、まあまあ、面白かった。「墨東綺譚」も
「断腸亭日乗」も未読だけど、大作の「断腸亭日乗」は
ともかくとして、「墨東綺譚」は読んでみたいという気に
なった。
硬派の作品が多い新藤兼人がなぜ軟派(?)系のこうい
う作品を作ったのか、動機は不明だけど、芸域の広い監
督なんだなあと、感心。
津川雅彦は結構アクの強い、見ていてイライラするキャ
ラを演じたりすることが多いような印象があったけど、こ
の作品では淡々と「枯れた」荷風を好演していて、感心。
墨田ユキは初めて見たけど、なかなか魅力的な俳優だ
なあと、これまた感心。スリムで色白での肢体はなるほ
ど、AVで充分、通用するなあと納得。
お雪と結婚の約束をしたのかどうか、しながらためらっ
たのは原作通りなのかどうかは、未読の私には不明だ
けど、双方の切々たる思いはイマイチ、伝わらなかった。
戦後、浅草寺の前でスレ違うのは、翻案なんだろうな。
四畳半襖の裏張り [DVD]
日活ロマンポルノの初期の名作のひとつではないでしょうか。
永井荷風の作と伝えられる発禁ポルノ小説『四畳半襖の下張』を下敷きにした作品。海外では《The World of Geisha》というタイトルで紹介されている神代辰巳監督の代表作でもあります。
大正時代の米騒動の頃の東京は新橋界隈の花柳界が舞台。男と女の淫らで喜劇的な色模様の底にただよう、なんとも辛辣な人間観察が印象的です。
宮下順子、絵沢萠子、芹明香など、存在感のある女優たちの演技ににじむ女の性の本音としたたかさ。江角英明、山谷初男、粟津號が身をもって演じた男の性の滑稽とむなしさ。どちらにも心にしみるものがある。
あの唐突な幕切れにも不思議な余韻がありますね。
正直にいって、ポルノグラフィとしてのエロさの度合いはあまり高くない。それに娯楽作品にしてはいささか身につまされてしんどいストーリーだとも感じたけれど、日本映画史上の不朽の名作のひとつだと私は思います。内容は完全におとな向き。
女性が見てもそんなに違和感がないのでは?
摘録 断腸亭日乗〈上〉 (岩波文庫)
日記文学の最高峰であると考えている。
永井荷風という いささかひねくれた文学者が 自分の日常を綴っているだけと言ってしまうと それまでだが いくら読んでいても飽きない。
書いている時代は 大正6年から昭和34年だ。日本史上 もっとも激動の時代だったと言って良い。そんな「激動」の時代の中 永井が書いているのは どこで何を食べたであるとかどこの女性とどうした ばかりである。所々には その時代の影はきちんと描かれているが それは「舞台設定」として出てくる程度で 基本的には 永井個人の「欲」が書かれているだけだ。
そんな 極めて個人的な日記を耽読した人は多い。小津安二朗、川本三郎、田中康夫、アラーキー等が その影響を認めている。
武田百合子の「富士日記」もそうだが 他人の「日記」は 時に 実に面白い。でも それは何でなのだろうか。僕は まだこの問いへの有効な答えを持っていない。
女ぎらい――ニッポンのミソジニー
日本のフェミニストの第一人者である上野千鶴子。近年は、直接的なフェニミズム、ジェンダー関連
の本以外にも間口を広げている彼女であるが、本書はどストレートなタイトル『女ぎらい』だ。紀伊國
屋書店出版部のPR誌『scripta』にて3年半続いた連載を書籍化したとのこと。
フェミニストが「女ぎらい」?不思議に思われるだろうが、著者が説くのはこの社会の構造に深く刻印
された「女ぎらい」という名のシステムだ。「男」は女を締め出して男社会(ホモソーシャル)で地位と
財を独占する。彼らが「女」を嫌悪するのは、「女」が彼らの欲望を不可避に誘発させるからだ。その
一方で「女」を女の中から一人選び独占的に「所有」する。女は「男」と競争しながら、同時に「男」に
欲望されないとならない。このダブルバインドを前に、多くの女は分裂を余儀なくされる。そうした社会
のメカニズムに、本書は夫婦関係、小説、皇室問題、女子校文化など、様々なアングルから焦点を当
てる。
しかし、問題意識としては少々古臭く思える。そもそも、本書の元ネタとなったホモソーシャルは、セジ
ウィックが80年代に提唱したもので、なにを今さらという感は否めない。林真理子や東電OLが題材で
は、 さすがに対象年齢の下限がきわめて高く設定されてしまうだろう。
若い世代ほど、女も男も問題のフェイズは「他者の性」から「自分の性」へと移行しつつある。その点、
この本も長−い前置きのあとで、ようやく巻末(14章、16章)にて現代に戻ってくるのだが、それらは
ちょうど、読者に丸投げされる形で終えられる。
ところで、このページを訪れたとき感じたのはある種の居心地の悪さだ。そこにあったのは、好評価
レビューというより、いかにもな「上野師匠、ありがとう」の感想文。この教条的な上野の著作の前に
従順な読者でいられること。上野の批判の射程には、そういう心性も含まれると思うのだが、どうだ
ろうか?
墨東綺譚 [DVD]
遊郭に
「世の中の真実がある」というスタンスで映画が進行しますが
「遊郭に身を落とした人間は結局は幸せになれない」という結末を持ってくるあたり、見ていて少し辛い。ここを最初と最後に出てくるストーリーテラー役の「作家」にうまく語らせているところはうまい。
この映画のよさは、そんなところではなく、何気ないせりふが、かなり粋だったり、男と女、はいつでもどこでもそんなに変わらないということを語っている点です。
山本富士子さんの、引っ付くくらいの、男にまとわりつく愛情の表現はすごく良い。それが一番の見所です。あれくらい素直な愛情表現ができるといいねえ。