森と湖のまつり [DVD]
高倉健と北海道という組み合わせで一番成功しているのがこの映画だ。
ダンスウィズウルブスがアメリカ先住民を描いた以上に、アイヌの現在を神話的に描くことに成功している。自らの和人としての出自を知らないアイヌ独立の闘志である高倉健の姿はむしろマルコム・Xを思いださせるかも知れない。壮大なスケールを持っており、ぜひ大画面(ワイド+カラー)で見て欲しい。
原作よりもいい作品になっている。内田吐夢の隠れた傑作だ。
ひかりごけ (新潮文庫)
「富士」も読みましたが、武田泰淳の作品は、いろんな意味で「閉じ込められた人間の究極」が書かれており、読み手の私も猛烈な閉塞感、圧迫感を感じてしまうのです。それは孤島であったり、氷河であったり、精神病院であったり。普通なら置かれないところに押し詰められた人間の心、行動、それをここまで突き詰めて書けるものか?と思ってしまいます。
「ひかりごけ」では、何日も食べていない、全く食べるものがない、今後も食べるものが手に入る可能性はゼロという死目前の状況に閉じ込められた船員たちが、「人肉を食べて生き延びる」という悪魔の誘いに対し、各人それぞれの信念を貫く姿が書かれます。そういう状況下に置かれたこともないくせに「人肉を食べるなんて鬼畜だ」なんて簡単に非難できるのか。「食べずに死んでいったからすばらしい」と敬えるのか。唯一、食べて生き残った船長は、何を問われても「私はただ我慢しているだけだ」と繰り返すけれど、彼のいう我慢とは何か。読み手によって幾通りも答えが考えられるという読書の醍醐味を、久々に味わいました。
白昼の通り魔 [DVD]
ただの犯罪者の話じゃあもちろんない。民主主義の挫折って言うのかな、小山明子の教師役に妙な共感を抱いた。理想主義者の挫折。しかしそんな悲哀が前面に出ないのが大島かな。最後に生き残るのは生理の強いものだからね。
この作品はなんともいえない気分になる。カットの異常な多さもこの作品にはフィットしている。
富士日記〈上〉 (中公文庫)
ひたすら毎日のことを書き綴った日記。
公開することを前提とせずに書かれたものなので
出版を前提に書かれた作家の日記や、
個人のブログなどのように、
ある程度、読み手の目を意識したものとは違って
まさしくほんとの日記です。
それがなんでこんなにも面白いんだ???と不思議でならないです。
日常の当たり前の出来事をつづる中に、作者の非凡な感性がのぞいてます。
評論集 滅亡について 他三十篇 (岩波文庫)
「司馬遷の『史記』は殺人の記録である」という武田泰淳は『司馬遷』を書いた。この思想の上に立って「滅亡について」次のように述べ、人類の歴史は滅亡の歴史だとする。。
「戦争によってある国が滅亡し消滅するのは、世界という生物の肉体のちょっといた消化作用であり、月経現象であり、あくびでさえある。世界の胎内で数個あるいは数十個の民族が争い、消滅しあうのは、世界にとっては、血液の循環をよくするための内臓運動にすぎない」
しかし、また次のようにも言っていることに注意しなければいけない。そこから文化を生むにはその変化の中にも「非滅亡たる一線」がなければならないとする。それを積極的に肯定していかなければならないとする。しかし、今後それが許されるであろうか。近代戦争の性格が、ますます全的滅亡に近づけてゆく傾きにある今日、突然変異に似た人類の破滅の起こりうることを憂慮する。
その時、ヒューマニズムがどれだけの働きができるであろうか。日本の文化人はそれどう対処していけるであろうか、心もとないことである。
生涯、文学者としていかに社会と関わるかを追求した文学論の精髄31編が収められている(雅)