YP18 バッハ インヴェンションとシンフォニア ブゾーニ版
ブゾーニが解釈した解釈版です。
バッハが指示していない強弱等が書かれています。
ブゾーニはバッハの曲の編曲者、演奏者として有名なので、原典版と併用して、ブゾーニの解釈と承知して使用するには、参考になるかもしれません。
装飾音は装飾記号が譜面化されていて、初心者には弾きやすいです。
特にシンフォニア2番のように片手でトリルを弾きながら同時に他の音を弾くようなところでは、合わせるタイミングも詳しく書かれていて参考になります。
ブゾーニによる練習の注意や、曲ごとの練習目的、練習効果などの解説もなかなか参考になります。
しかし原典資料からはかけ離れた楽譜になっています。2声1番のように、トリルをモルデントに改変しているようなところもあります。
解説は楽譜の下段に、ドイツ語と日本語訳併記で幅を広くとって書かれています。
曲によってはページの半分以上が解説となっており、楽譜が読みにくいのが難点です。
インヴェンションは通常、全ての曲が見開き2ページで、譜めくりしないで済むようになっていますが(バッハの自筆譜もそうです)、この版は解説が多い曲では譜めくりをしなければなりません。
リスト バガニーニ練習曲 (Zen-on piano library)
リストのパガニーニによる大練習曲(改訂版)が全曲収録されています。初版であるパガニーニによる超絶技巧練習曲は載っていません。
この曲集のいいところは、第3番のラ・カンパネラのみですがブゾーニの編曲による楽譜が掲載されていることです。リスト版とブゾーニ版を比べてみるのも面白いと思います。
欠点としてはペダルや指使いの指示があまりないということです(特にペダル)。これを使って弾くのはちょっと厳しいと思う人は、春秋社から出ているリスト集をお勧めします。
しかし日本語による解説は充実しているので、鑑賞用としてはお勧めできる一冊です。パガニーニ大練習曲に関してはワッツや大井(こちらは初版も一緒に録音されています)がCDを出しているので、併せて使ってみるのもいいと思います。
バッハ=ケンプ ピアノのための10の編曲
既刊の「ピアノのための10の作品」(106000)を、原出版社、Bote&Bock社の最新版に準じ楽譜内容を改訂(収録曲目は変更なし)したそうです(全音社Webサイトより)。
編曲はすべてケンプによるものです。
[ 曲目 ]
神よ、あなたに感謝をささげます BWV.29
Sinfonia aus der Ratswahlkantate
ハープシコード協奏曲 第5番 ヘ短調 BWV.1056 第2楽章「ラルゴ(アリオーソ)」
Largo (Concert a cembalo concertato 5 f-moll)
シチリアーノ(フルートソナタ第2番)BWV.1031
Siciliano aus der 2 Flotensonate
来たれ、異教徒の救い主よ BWV.659a
Nun komm, der Hiden Heiland
目覚めよと呼ぶ声が聞こえ(「カンタータ140番」からコラール) BWV.645
Wachet auf, ruft uns die Stimme
主よ、人の望みの喜びよ BWV.147
Jesu, Joy of Man's Desiring Chorale from Cantata
あなたの道をお選びなさい(わが心からの望み)BWV.727
Befiehl du deine Wege (Herzlich tut mich verlangen)
イエスよ、わたしは主の名を呼ぶ BWV.639
Ich ruf' zu Dir, Herr Jesus Christ
"たしかにその時機だ(いざともに喜べ、愛する信者たちよ)BWV.307,734"
Es ist gewisslich an der Zeit (Nun freut euch, lieben Christen g'mein)
こころよき喜びの声にて BWV.751
In dulci Jubilo
バッハ・トランスクライブド
バッハをはじめ、ドイツもの全般が苦手だった。そんな自分にバッハの魅力を教えてくれた忘れられない一枚。
演奏者のエレーヌ・グリモーは仏のピアニスト。10代前半で名門パリ音楽院に入学し、フランス人でありながらバッハ・ブラームス
等のドイツもの、ラフマニノフ等のロシアものの演奏を得意とする。現在は演奏活動の傍らニューヨーク郊外にて、幼少期から親
しんできた狼の保護活動も行うユニークな感性を持つ人。
昔ピアニスト達の特集ムックにて女優かと見紛う美しい容姿の女流ピアニストの写真を目にし、グリモーの名前だけは覚えていた
が、当時は彼女の演奏を聴きもせず変な偏見を持ち遠ざけていた。それから20年後ひょんなことで、本盤に出会った。何故自分
が苦手なバッハの作品で統一された本盤に惹かれたかは分からないが、1曲目の平均律ハ短調のプレリュードを数小節試聴した
瞬間、何か強い引力のようなものを感じ購入した。
まず、本盤のプログラムの組み方が大変ユニークだ。平均律の間にピアノ協奏曲やシャコンヌピアノ版といった大曲を挟む構成。
しかし実際聴いてみると各曲が実に自然に繋がっており、全く違和感を感じさせない。それどころか普段平均律のみで固められた
CDが多い中、本盤は良い意味でメリハリがあり自分のようなバッハ初心者にも聴きやすい構成になっている。
もう他のレビュアの方も絶賛されているので繰り返しになるが、やはり目玉はヴァイオリン曲「シャコンヌ」のブゾーニピアノ編曲版。
特に終盤の天にも届き、突き抜けるような圧倒的なスケールと荘厳さを纏った演奏には、快感さえ覚えた。変なルバートで誇張さ
れた表現になることなく、極めて素直な演奏だが、そこには彼女にしか出せない音のオーラのようなものを確かに感じる。
彼女に対する認識が改まっただけでなく、ドイツ音楽全般についてさらに追求するきっかけになった、自分には宝物の一枚である。