草原の風 上巻
この作品は、さわやかな感じが特によかったです。昔、重耳を読んだときのような、爽快感でした。
特段、クライマックスでもないシーンで、思わず涙が出そうになるくらい、劉秀の人間性が伝わってきます。
自分が生きていく上で、見習わなければならないことを、常に感じさせてくれます。
三国志〈第7巻〉 (文春文庫)
劉備がケイ州に続き益州を獲得し、曹操も「魏王」となり、いよいよ魏呉蜀の三者鼎立する「三国志」らしい体制が整ってきました。
宮城谷「三国志」は、史書に準拠して、今まで知らなかったような人物にまで触れており、その人物描写も素晴らしいまもがあります。
その一方で、こうした物語の精細さが、山谷を奪い盛り上がりのない小説にしているような気がしてなりません。今までの宮城谷作品のように一人の人物を扱っているときは、そうしたことはないのですが、「三国志」と言う長丁場の作品故か、その辺りが残念な気がします。
三国志 第十一巻
魏における司馬氏のクーデターと、孫権の死前後の混乱が今巻で、蜀はお休みです。
ボンクラの子孫台頭による身内支配の行き詰まり、独裁者の老害、暗愚な君主による国政の弛緩と、
三国がそれぞれの理由で亡国の坂を転げ落ちていきます。
そして面白いことに、加害者と被害者のどちらに正義があるのか、まことに分かりづらいのです。
国が破れるとはこういうことなのか。
ん?...これだけみると、どこかの国の今みたいじゃないか。
うーん。
つまり人間は、2,000年経っても変わらないということか。
四知から始めた宮城谷三国志の真意が、まさにクライマックスを迎えようとしている。
あとどのくらい続くのか分からないが、ここまで付き合ったら、もう後には引けない!
本棚も破裂寸前でクライマックスだ。
異色中国短篇傑作大全 (講談社文庫)
文字通り中国を題材にした短編集。「異色」と銘打ってあるのは別に作品が異端譚という訳ではなく、複数の作家の中国に題を取った短篇を集めた企画自身が異色という意味だろう。勿論、異国情緒は感じられる。尚、以下では中国の地名、人名等を当用漢字で表記できない場合があり、その際はカタカナで表記することを容赦されたい。
「指」は男と3人の女(妾含む)の交情を、男の「指」に焦点を当てて描くというユニークな作品で、現代日本の小説として書かれても不思議ではないが、舞台設定により情感の深みが増す。「曹操と曹ヒ」は日本でも有名な曹操の父子関係を描き、そこに父子関係の普遍性を見い出すという趣向。「方士徐福」は経歴不詳な徐福の後半生を想像で補って、蓬莱へ旅立つまでを描いたもの。最後に、中国、日本に残っている徐福の伝説を纏めて紹介してくれるのも嬉しい。「汗血馬を見た男」は張ケンという武将が匈奴攻めの使命を帯びながら捕まり、後半生を匈奴人として生きるというもの。「汗血馬」は騎馬民族の間に伝わる"天馬の裔"と言われる名馬の事。「西施と東施」は本作で一番の出来で、ある村の傾国の美人西施とその友人の醜女東施の友情、敵国に召し上げられた西施がその美貌で文字通り敵国を内から滅ぼす機知、そんな西施の心を知って逞しく生きる東施を描いて秀抜。「蛙吹泉」は珍しくも間欠泉を用いたミステリ。
中国と言う異国情緒を誘う舞台で普遍的な人間の心理模様を描いた傑作短編集。