草の花 (新潮文庫)
読了後、しばし茫然とした。なんと美しい作品なのか!
初読から20年経つが、これを超える恋愛小説に出会っていない。いや、これは恋愛小説というより、人間の心の本質(=孤独)を描いたたぐい稀な日本文学だ。
廃市 デラックス版 [DVD]
昭和59年に日本のヴェネツアと称される水の街柳川で撮影された忘れ難い恋愛映画。福永武彦の原作を大林宣彦監督が心をこめて映画にしてくれました。
エドガー・アラン・ポーに関する卒論を書くためにこの地の古い旧家の旅館を訪れた大学生が、旅館の若い女性(小林聡美、名演)を通じてこの死んだように水と過去の追憶に沈み込んでいる運河の街とそこに生きる人々に魅せられてゆく。
全篇に流れる川の流れは、この風光明媚、山紫水明の地に棲む住人たちの精神に徐々に侵犯し、恐るべき諦念が色情と狂気を生むのだ。
明るくて快活なはずの娘が胸中深く秘めた恋心の行方はいずこへ? ラスト築築後柳河駅を出発する汽車に追走しながら尾美としのりがはじめて主人公にぶつける叫びが、観客の心をわしづかみにする。
日本3大映画美人の一人、入江たか子とその娘入江若葉の共演に拍手! 大林監督が作曲した弦楽の調べが、ことのほか人世の、青春の、男女の哀感を深く抉るようだ。
合唱名曲コレクション(28) 雪明りの路
廃盤になっていますが、多田武彦の作品を知る上で欠かせない演奏ですので、再販してほしいCDです。中古市場でも結構な値段がついていますので。
『雪明りの路』の演奏は関西学院グリークラブですが、指揮は福永陽一郎氏です。合唱の歌わせ方、テンポ設定など微妙に北村協一氏とは違うのが多田武彦マニアにとっては興味深いところです。関学グリーの名演奏で、圧倒的な量感をもって男声の厚いハーモニーが飛び込んできます。ナローレンジの録音ですが、歴史的な演奏の価値に免じてください。録音データはありませんが、1975年発売のLPの解説が転載してありますので、それ以前なのは確かです。
『富士山』は福永陽一郎指揮、日本アカデミー合唱団(合唱団京都エコーのメンバーが中心)の演奏です。合唱指導は関屋晋氏という豪華な顔ぶれです。1970年発売のLPが音源ですから、演奏は今の感性から聞くと厚く重く聞えるかもしれませんが、これが多田武彦ですし、この心を揺さぶるような量感がたまりません。この重厚な音色は現在の男声合唱団からは生まれないでしょう。
『在りし日の歌』は北村協一指揮、関西学院グリークラブ、『冬の日の記憶』は福永陽一郎指揮、同志社グリークラブで、大学グリークラブの名演奏を聴くことができます。いずれも1982年3月に池田市民文化会館で収録されました。
ライナーノートは多田武彦氏と福永陽一郎氏が各曲について思いが綴られており、資料的価値も高く、読んでいてとても参考になります。なにより伊藤整氏の手紙が収録されていますから。
多田武彦氏やトレーナーの大久保昭男氏はお元気ですが、関屋晋、福永陽一郎、北村協一という名指揮者は鬼籍に入られました。名演奏を残された方々に感謝の気持を込めて。
廃市 デラックス版 [DVD]
大林監督は個人映画時代の頃から福永武彦の映画を撮っていて、これがその初劇場映画化になるわけです。それだけにいつもの大林映画のギャグや可笑しい部分は一切ありません。だから映画自体とても安定しています。小林聡美もいつもの大林組の出演者達もだいぶ他の氏の作品とは異なった暗い演技をしていて凄いなと思います。主演の小林聡美は前作の「転校生」の演技と全く違う役柄でしたが、「転校生」のときよりふっくらしていて可愛いです。尾美としのりはこの回で痩せたみたいですね、役にぴったりです。それにしても大林監督は入江親子を良く出しますね。若葉さんも凄い役者だな。
それに大林監督自ら作曲して宮崎尚志が編曲した音楽も名曲です。