ピアノ曲集 吉松隆 アヴェマリア/子守歌
もともと、田部京子さんの「ピアニシモ」(2004年、全16曲)というピアノアルバムのために、吉松隆さんと田部京子さんが編曲および作曲されたものの中から、選曲されているそうです。CDを聞いてから楽譜を買うのもよいでしょう。確かに、ピアニシモという名にふさわしい優しいメロディーを奏でることができます。私は、吉松隆さんの編曲したカッチーニのアヴェ・マリアを弾きたくてこれを購入しました。この曲は、やはり美しかったですし、わりと弾きやすかったです。ちなみに私はピアノ暦4年のアマチュアです。ロマンチストな心を持つ人ならおすすめの楽譜ですよ。
吉松隆:プレイアデス舞曲集(第I集~第V集)
NHK大河ドラマ『平清盛』の作曲家でもある、吉松隆氏のピアノ舞曲集。最長でも三分に満たぬ小曲集でありながら、いずれも幻想的かつ情緒的で、星夜の空によく似合う逸品揃い。
しめやかな曲、軽やかな曲と曲想は様々ながらも、どことなく万葉の息吹を感じさせる神話的な透明感が聴く者の心を慰める。
交響曲第四番やピアノ協奏曲「メモ・フローラ」等、氏には魅力的な曲が数多くあるが、中でも本曲集は作曲家吉松隆を知るに最適な入門用の一枚だろう。
値段も手頃、演奏もきめ細やかで美しい。
CHOPIN (ショパン) 2008年 06月号 [雑誌]
「20世紀の大ピアニストたち」シリーズ第4回に登場するのは、1970年に46才で急死した、鬼才とも呼ばれるサンソン・フランソワです。私もピアノをたしなみますが、中学2年でベートーヴェンの3大ピアノソナタの廉価版をたまたま購入したのがサンソン・フランソワとの出会いでした。それ以降、ショパン、ドビュッシー、ラベルの演奏は基本的にサンソン・フランソワのLP・CDを基本に購入するようになりました。ホロヴィッツのピアノの弦が切れるかのような演奏も良し、アルゲリッチの素晴らしく早いテンポと比類ないテクニックも良いのですが、コルトーに続くフランスの古きよき時代の最後を飾るのは、サンソン・フランソワをおいては他にありません。近年の正確なピアノテクニックを競う演奏ではなく、即興的なショパンのテンポルバート、聴く者を唖然とさせるエチュード、もう何も言葉のでないポロネーズ、自由闊達なショパンに対して、何故か非常にまじめに模範的な演奏を残しているドビュッシーとラヴェル、20世紀が生んだ4番目ではなく1番目のショパン演奏家だと私は思います。この雑誌が絶版になる前に、注文されることをお勧めします。フランソワの残した貴重な言葉も載せられています。サンソン・フランソワという演奏家の人間像に迫る特集です。
ブラームス:後期ピアノ作品集
本盤には、ブラームスが晩年半隠居生活に入り世間との接触をほぼ遮断した状態で創られたピアノ小品群が収められている。
元々ドイツ音楽が苦手であった為、風貌・音楽共に厳格なイメージのブラームスは自分から最も遠い存在の音楽だと思っていた。
しかし今本盤に収められた簡素だが深い美しさをもった作品群に接すると、単なる聴かず嫌いだったと思う。
彼のピアノ曲は彼の知名度の高さにも関わらず、同時期の他作曲家の作品と比べて演奏される機会が少ない。それは彼のピア
ノ曲が地味・演奏映えしないという先入観をもたれていることも原因の一つだろう。しかしここに収められた小品に備わったメロデ
ィのなんと繊細で優しく、そして心を抉られることだろうか。全体に音数が少ない分ひとつの音が深く心に入り込んでくる。
様々な文献では彼の晩年の音楽を形容するのに「孤独・深.遠」という表現をよく見る。彼の音楽経験値の低い自分にそれが即座
に理解出来る訳はないのだが、本盤を聴いていると何か自分が現実世界から遠く離れた彼岸の場所にいるような心地良さを感じ
る。この白昼夢のような感覚を指すのだろうか。
演奏者の田部京子は国際的に活躍する名ピアニストらしいが私は本盤が初体験。彼女の演奏は表現を過度に誇張することはせ
ず、どちらかというと端正な演奏。しかし空間に放たれた美しい響きに並ならぬ説得力と艶があるというか、各声部の些細な動きま
で耳が惹きつけられる。派手な技巧は見当たらず曲の起伏もさほど大きくないこれらの作品群を1時間以上飽きずに聴かせるのは
極めて難しいと思うのだが、最後まで緊張感が緩むことなく一気に聴かせてくれた。ややエコー多めな録音は収録曲の性格に合わ
せたのだろうか、各瞬間に立ち上る響きを鮮度高い音で閉じ込めている。
晩年の彼は、数少ない友人との間でも摩擦を繰り返す孤独な境遇であったという。しかしこれらの美しい小品集からは、単なる気難
し屋だけではない彼の内側に潜む、限りなく純粋な心が伝わる気がした。この魅力は派手な技巧を駆使する曲を好んで聴いた10代
の頃には理解できなかったと思う。30代の今改めてブラームスに対峙し、そして本盤に出会えてよかったと思う。