Ballad of Purple Saint James
まず本作をレビューする際に紹介したいのが、サウンド・プロデュースを手掛けたグループForeign Exchangeの存在だ。米ラップグループ
Little BrotherのメンバーPhonteとオランダ出身のサウンド・クリエイターNicoleyが04年に立ち上げたプロジェクト。Nicoleyの創りだす浮遊
感溢れる心地良い電子サウンドとPhonteのラップとゲスト陣の歌が絶妙な塩梅で絡んだ「Connected」、「Leave It All Behind」の2作品は
いずれも高い評価を受けている。
一方本作の主役Yahzarahはエリカ・バドゥの作品でのバックコーラス等のサポートを経て2001年にインディー・レーベルからソロ作品を発表。
これまでに3作品を発表しているが全てインディでの活動の為、日本では余り馴染みのない人だと思う。アクは強くないものの決してパンチに
欠けることの無い美声は表現力に長けており、時にはチャカ・カーンの如く中音域で蓮っ葉に絡み付く歌い方をすると思えば、ミニー・リパート
ンの如く官能的な美しい高音域を披露したりと表現の幅が広い。そんな彼女の声はどんなサウンドにも柔軟に溶け込むことが出来、本作では
彼女の歌声の魅力を堪能できる内容となっている。
冒頭の「Strike up the band」にてバンド隊が繰り出す最高のグルーヴ感と自在なアドリブを交えた彼女の多重コーラスの艶に既にノックダウ
ン必至だ。彼女の為に用意されたサウンドは、電子音を基調としながらも、渋いホーン・セクション、歯切れ良いドラム・ビート等バンド・サウン
ドの美味しい要素を積極的に取り込んでおり、Foreign Exchangeでの人工色強めなサウンドより力強く、彼女のソウルフルな声が良く映える
様に設計されている。物憂げなバラード「All my days」では、背後に鳥の声らしき音を散りばめた夢見がちなサウンドに彼女の美声とPhonte
のラッパーとは思えない素晴らしい歌声との絡み合いが素晴らしいし、Stevie Wonderの「Come back as a flower」のカヴァーでは、美しい
ピアノが煌めく落ち着いたテクスチュアの中を舞い上がる彼女の高音域の美しさにそれこそミニー・リパートンを連想させずにいられない。
ラストの秀逸なミディアム・ナンバー「Love,come save the day」で軽やかに作品を締めた後は何とも言えない爽快感が残る。
最近R&Bシーンでは流行が分散し、各々が自分の声質に合ったサウンドを模索している様に感じられるが、本作はその中で頭一つ抜けた完
成度を誇っている。あまり癖が強い声ではないので、スタイリッシュなポップス作品としても推薦できる隠れた(?)逸品だ。