天と地と 上 (文春文庫)
フィクションであるにもかかわらず、同時の時代描写が優れているため、
歴史の真実をなぞっているかのような気分にさせられる作品である。
とくに、身分制度がはっきりしていた室町末期を現代人に分からせるため
ある種の、無情な描写が織り込まれているセンスは抜群である。
ただ、残念にも、景虎が成長し、活躍を始めるまでのストーリー
つまり、父である為景のストーリーが長すぎるため、
景虎(謙信)ファンには「主人公の登場がじらされている感じ」が否めない。
実力社会であっても、大義名分を必要とし、その中に身分制度が根深く腰をおろしている当時の時代背景がよくわかる作品である。
悪人列伝 古代篇 (文春文庫)
日本史上「悪人」と呼ばれる人物を考察したもの。本書は古代編で対象は、「蘇我入鹿」、「弓削道鏡」、「藤原薬子」、「伴大納言(善男)」、「平将門」、「藤原純友」。本人を論評するのではなく、「何故、彼らが悪人と呼ばれるようになったのか」を時代背景などを踏まえて考察している点が特徴である。
「入鹿」の章では蘇我氏の興亡がメインで入鹿はその最後の一コマ。目玉は蝦夷天皇説だが、私は天皇制なる制度は鎌足・不比等が確立したと考えているので、本説には賛同できない。鎌足が蘇我氏の手法をベースにしたとは思っているが。「道鏡」の章では孝謙天皇を中心に描かれる。だが、男女の愛欲に比重が置かれ過ぎ。仲麻呂が天皇の位を狙ったという可能性は高いが、道鏡は実は清廉潔白な僧侶だったと言うのが近年の定説。全ては権力闘争なのだ。「薬子」の章では平安遷都の理由を"大魔王"祟道の祟りに求める辺り、梅原氏の"怨霊史観"を想起させ面白い。男性陣とは異なり、「悪女はやはり悪女」と言う結論も説得力(?)がある。「善男」の章では他の人物と比べ知名度が低いせいか、本人の生涯を細かく追っている。悪人と言うよりは、現代で言うと出世欲に取り憑かれた官僚のようだ。冒頭から本章までは、鎌足から良房に至る藤原氏の興隆の足跡を辿っているかのようである。「将門」の章でも前半は藤原氏の専横と"怨霊"道真、そして武士の発生が語られる。将門の乱の背景である。五代の後胤だが低い扱いを受けていた将門が"成り行き"で蜂起した様子が詳細に描かれる。京の公家に対する地方武士のレジスタンスの先駆けだったのだ。「純友」の章では将門と時を同じくして蜂起した純友の乱を、朝廷の財政(土地)問題、東アジアの動乱期、瀬戸内海賊の横行との関連性で切って見せる。
史料の綿密な考証と作家としての奔放な想像力で歴史マニアを楽しませる快作。
天と地と 天の盤 [DVD]
壮大な合戦模様、特に劇場未公開シーンを含めた戦闘シーンは圧巻です。上杉軍(黒)vs武田軍(赤)の色のメリハリが、非常に戦闘シーンを判り易く見せてくれます。実際に敵味方がここまで区別できるような鎧兜ではないでしょうが、映画としてみるなら映像的にも美しく見応えがあります。赤黒入り混じる中での謙信(人馬共に)の白色は、特に目立っており凛として見えました。しかし合戦シーンを除いては半端に人間模様が描かれており、短い時間がネックとなり時間軸が飛びまくっていました。特に合戦までの経緯などを中途半端に描いている為、返って意味不明であり作品を難しくしている感じがします。個人的には「川中島の戦い」のみを集中して描いて欲しかったです。とはいえ日本の四季「春の桜吹雪」「夏の壮大な雲」「秋の夕暮れ」「冬の雪景色」が美しく織り込まれており、静と動(四季と合戦)を上手く対比させようという意図は感じました。ただ色々と詰込もうとし過ぎて、中途半端になってしまった感は否めませんが...。本作のメインである合戦シーンは(各武将の判別が難しかったですが)、大迫力で見応え充分だと思います。また音楽は良くも悪くも小室色が強く出ていました。
NHK大河ドラマ 風と雲と虹と 完全版 第壱集 [DVD]
原作者の海音寺潮五郎は、敗戦にショックを受ける日本人を見て、強い日本人の歴史を書く事を決意し、書き上げたのが『平将門』や『海と風と虹と』でした。そこから生まれたのが本作『風と雲と虹と』です。
テープの経年劣化による画像の乱れは否めませんが、完全版として十分に楽しめます。
序盤の将門は、世の矛盾や不条理に疑問を持ちながらも、親戚や地元有力者や周囲のイビリに耐えながら、出世を目指しますが、徐々に武者として、民人のリーダーとしての使命に目覚めていきます。そして、総集編では割愛されていた純友の活躍がしっかりと確認できます。特に将門との友情を描く第15回「伊予の海霧」第16回「恋の訣れ」や凸凹コンビである伊予守&介と追捕使に啖呵を切って海賊となる第25回「風の決意」は名作です。
個人的には第20回「良子略奪」第22回「修羅の旋風」がお勧めです。
尚、乗馬のアップシーンの映像が不自然ですが、ただのビデオ合成です。
新装版 孫子(上) (講談社文庫)
古代中国の将軍などというと、なんだか非常にとっつきにくい、怖いというイメージがあるが本書の主人公である孫武将軍は一言でいうと、普段は気の弱い単なる軍事マニアのオッサンなのである。このオッサン(?)がもう一人の主人公といえる伍子胥に見いだされてトントン拍子に出世していくのである。痛快である。本書は小説であり、兵法の解説書ではないので、本書内で起こるいくつかの戦での戦術はあまり詳しく書かれていない。そして敵味方に関わらず相手の心理を読むことについては熱心に書かれている。つまり兵法の第一は相手の心理を読む事なのであることがよく分かる。また本書は紀元前5世紀の中国を舞台にしているが当時の風習や思想についても解説があり、ためになる。それから最後にこの手の本に普通ついている、当時の地図がついていないのはなぜか?あればもっと読みやすくなるのに。