半藤一利 完全版 昭和史 第一集 CD6枚組
聴き終わった後に、思わずため息と共に「良かったなぁ」と呟いちゃいました。 幕末史が良かったので、 そのまま昭和史も購入しました。 こちらも複雑な歴史を分かり易く紐解いていますが、 しかし、こちらはさらに、詳細な資料だけではなく、 実際の体験者・当事者から直に聞いた話などに支えられています。 教科書や普通の講義では伝わりきらない、 当事者が何を考え、何故こうなったか、 という生々しい話が、 その時代を共に過ごしているかのような錯覚を起こすくらいに伝わってきます。 戦後史素人から教科書的知識がある人まで、 幅広くオススメできます。 なお、オーディオブックとしての聴きやすさですが、 もともとが講演なので、 教科書の朗読ものよりも伝わりやすいくらいです。 また、話し方は、 江戸下町のべらんめえ調なので「ひ」と「し」の区別はありませんが、 苦になるものではなくて、 むしろ講壇調の感情移入しやすい名講演でした。
ポーツマスの旗 (新潮文庫)
戦争を始めるのはいともたやすい。しかし、終わらせるのは至難の業である。敵味方ともに頭に血が昇って熱狂し、打算に固執する。終わらせたとしても、遺恨が残らず、復讐を起こさせないようにしたい。それが失敗して泥沼になった例は多い。
本書は近代日本が経験した日露戦争というハイライトの講和会議を淡々と、しかし力強くえがいたものである。小村寿太郎は、労多くして報いの少ないが、しなければならない仕事と認識しつつ、ポーツマスに赴く。相手は老獪なロシアの大物ウィッテ。アメリカのルーズベルトは同情的であるが、むしろ日本政府や日本国民が厄介である。また、ちらつく諸外国のうごめく影・・・はたして彼は無事講和条約締結にこぎつけることができるのか。
いつもながらの見てきたような、綿密な調査にもとづく吉村節は、その会議の様子をスリリングに描き出す。
日露戦争、資金調達の戦い: 高橋是清と欧米バンカーたち (新潮選書)
外資系金融マンである著者が、資金調達面を
中心に日露戦争の真の姿を描いた一冊。
今までにない斬新な視点、すなわち冷徹な
数値データから、日本の真の勝因に迫った
450ページを超える大作。そして傑作。
日露戦争を描く際、歴史家はどうしても
そのうねりを「熱い」物語として描きがちだ。
それが読者の理解の一助であることは間違いないが、
どうしても叙述が精神論に傾きがちで、
数値データによる客観的な裏付け、もしくは
データの精査による正確さも欠けている。
それに対し本書は当時の株式・債券価格のデータをもとに、
その数字をさらに精査・吟味し、調整を加えながら、
日露戦争の真の姿を描き出すことに成功している。
金融マーケットの知識が全く無いと、読み通すのに
少し苦労するかもしれないが、インターネット等で
検索しながら読みこなすのも悪くないだろう。
こういう歴史書にはあまり出遭ったことがない。
「正統な」歴史家から見たら、素人ともいえる
著者の一次資料の使用方法等で不満はあろうが、
語りつくされた感のある日露戦争をここまで精確に、
かつ興味深く描く余地がよくあったものだと、
深く感心する次第である。
二百三高地 [DVD]
題材は100年前の日露戦争での旅順要塞攻略戦です。
当時から日本では乃木の作戦指導が批判の的になっていましたが、機関銃と
コンクリートで固めた要塞を半年足らずで攻略したのは列強には驚異的なこ
とだったようです。 この戦いは特段装備が優れているわけでもない日本軍の
神秘的な強さを世界に印象付けることになりました。
それはクリミア戦争で機関銃の無いロシアの要塞攻略に当時最強の陸軍国
だった仏英軍が甚大な被害を出して1年近くかかったことからも判ります。
また日露戦争で日本が勝利国となったことは当時、アフリカやアヂア、アメ
リカの黒人等々世界で列強に虐げられていた多くの人に感動をあたえ、それ
らの国では子供や商品に日本の将軍の名前をつけることが流行ったとか。
こういった時代背景は今の日本人からすると完全に時代劇的な遠い昔の話に
感じると思われますが、他の古典作品と同様、人の営みに変わりはないし、
現代も国際関係が厳しいのも同様です。
この作品の特撮は甘いのですが、感動に何も支障になりませんし、俳優陣は
特撮を補って余りある素晴らしさだと思います。
こういった作品は反戦や戦争賛美といったイデオロギ的な問題がつきもので
すが、この作品は偏りを感じませんし、日本の指導層、攻略軍司令部、前線
兵士と市井の人々まで当時の日本を情感をこめて描いており、厳しい時代を
生きた当時の日本人の姿には多くの感動と示唆を与えられます。
まさに心に残る傑作です。