祈れ、最後まで・サギサワ麻雀
作家の書く文章と、実際の本人の印象というのは、
往々にして違うものです。
その二面性を余すところ無く見て取れるのが本書ではないでしょうか。
「祈れ、最後まで」は独特の感性を駆使して描く、おなじみ鷺沢小説。一方「サギサワ麻雀」は、実生活を生きる鷺沢さんの姿そのままが見える、
ポートレートのようなエッセイ。(直接面識はありませんが、某麻雀大会でお見かけしたときの印象が、エッセイそのままでした)
残念ながら、もう鷺沢さんの新作が世に出ることはありませんが、
一人でも多くの人に「鷺沢萠」という、酒とギャンブルを愛した
カッコイイおねえさんのことを覚えておいていただきたいと思います。
奇跡の島 (ロマン・ブック・コレクション)
寓話を紡ぐという行為は、作家にとって危険な刃である。
どれだけ荒唐無稽な作り話でも、
そこでは生き生きとした生命を与えられる一方、
その作家の物語性そのものが、衣服によって隠しようなく、
直に晒されてしまうからだ。
そういった意味でこの『奇跡の島』という作品も
危険な小説のひとつである。
「家族」や「血」に縛られたこの作家の物語性は
生命そのものが輪廻というメビウスの輪の中で
美しく昇華されてしまう南海の楽園では、
ただの執着と化してしまう危険性を孕んでいるからだ。
そう、残念ながら美しい写真によって彩られたこの物語は
鷺沢萠という作家の根本を否定する方向に働く。
主人公の自己犠牲も、秘めた想いも、
カリブ海のカラフルな風土の前では
世俗の色褪せた執着にしか見えない。
唯ひとつ、この物語を有効に成り立たせているのは、
「ホセ」という現地人の存在である。
まるでカリブ海のように全てを「神さまの決めたこと」と飲み込む彼のスタンスは
この小説の題名、『奇跡の島』の体現者のように見える。
ありがとう。 (角川文庫)
単行本に入ってない作品も収録しているというので文庫本を買った。なぜ鷺沢作品を読み続けているのか。パンチの効いた文体で自分の目を覚ましたいから。一度読むと止まらなくなってついイッキ読みしてしまった。こりゃあ、小説よりすごいやあ。思うにそうとう、鷺沢さん、小説書けなくて苦しんでたんじゃないの? それにくらべてなんと生き生きとしていることか! これこれ、おじさんが求めていたのは。鷺沢の力を吸い取り元気の元にしたいんだ。その力は第3章までみなぎっている。
高校からタバコを吸っていたこと、20歳になって祖母が朝鮮人であることを知ったこと、高校時代はファミレスで原稿を書いていたことなど彼女の個人情報、在日朝鮮人の心理、男は金がないといい女が抱けないと思っていることなどおもしろい指摘と鋭い分析。
第4章はうって変わって非常に落ち着いた文体。沖縄にハマリこんだ作家のウレセンから意識を外して自分に素直になった未発表の紀行文集だ。分量は文庫の半分近く。日頃の売文生活に疲れた作家が天国を見つけたのだ。どちらの文体もシャワーのように浴びたいくらいここちがよい。
明日がいい日でありますように。 サギサワ@オフィスめめ
この本は著者のHPの日記をまとめた本の四作目だが、
事情により管理人と秘書の入念で真摯な編集に
より発表されている。なので、今までの三作とは異なる部分
がある。大きな違いは
・当然ハードカバーなので装丁と紙質が良い
・縦書きでフォントも変更
・期間が長いため、編集の都合上省かれている部分がある
・著者の抱えているものに焦点を当てた構成
省かれている部分は、いささかローカルすぎるきらいのある部分や、
この構成においては関係のない部分があるが、必要であったと
思えるほどの整ったものである。この構成により(もしくは、
この時期の著者の日記のトーンにより)”おもしろく楽しく”
ということに集中していた部分とは異なる。
政治色が一番強いのは日記の四作の中でこの本だと言える。
著者の意見は実直すぎるきらいがある(そして、真に
受け止めすぎるせいでたまに論が稚拙になってしまう)
ので、眉を顰める人も少なくないと思うのだが、
私はこの著者の”選挙権の無い友達の方が多い”
”ある国のことを肯定するようなことを公の場で
言い続けていたら○○という攻撃を受けた”話など、
現場で隠さず戦い考え続けてきた心からの言葉と考え、
その字面上の意味をとらず、それを言う気持ちとアイデアと
ポリシーに焦点を置いて読んだ。
それだけではなく、いつもの応酬も健在である。
スタイリッシュ・キッズ (河出文庫)
「かっこいい少年少女たち」というからには、小学生か中学生あたりが登場人物の中心になるのかと思ったら、なんと大学生たちだ。
「キッズ」と定義された登場する大学生たちのなんと裕福なことか!
石原慎太郎の「太陽の季節」を思い出した貧乏な地方暮らしのおっさん・とほなのです。
「太陽の季節」同様、親たちはみんな金持ちで、しかも大概がそこそこの大学の学生さんたちである。
そんなお坊ちゃん、お譲ちゃんたちの交遊が描かれているが、たぶん彼らの行動規範は、いかにカッコよくいるか、ということだ。カッコウを気にしてそれによって生きも死にもするのである。それができる年代なのである。
鷺沢のバツグンに切れ味のいい、センスのいい筆致に惹かれて本書を手にしたのだが、ホントにホントにそれは期待にこたえてくれる。
「ヤリマン」
こんな言葉、「かっこいい少年少女たち」には似合わない。でもなぜそんなレッテルが彼女に貼られたのか、最後まで読むと分かったような気になってくる・・・。
ただ、昨今の社会情勢からいうと、登場人物の酒気帯び運転がやや気になるところかな。