北帰行 (1976年)
『北帰行』です。
『“啄木は私にとって一人の詩人であるよりもまず、一つの事件だった”雪国を背景に啄木の人生と自己の青春とを、抒情的かつ重厚な文体で描く。繊細さと強靭さに満ち溢れた昭和51年度文藝賞受賞作!』
石川啄木にかぶれた北海道出身の青年が、東京で挫折して、過去を回顧しながら啄木の足跡をたどって北へ旅する、という内容です。
幼少時に親友と共にいつくしんだ子馬の想い出、初恋、炭鉱事故、中卒後働きに出た東京での息苦しい孤独が、啄木を追想する旅と重ねて語られています。
あらすじだけ追うと、なんかありがちっぽいですが、重厚でいて詩情に溢れた秀逸な文章が、寒風が吹きすさび粉雪がちらついているモノクロームの北国の情景を痛いくらいにリアルに描き出し、その世界観によって強烈な個性を醸し出している読み応えのある傑作です。
全3章構成ですが、第2章の前半である、炭鉱事故部分がものすごいリアルで特に良かったです。
基本的に現在の旅の様子とそれに重ねる啄木論、主人公の過去回想が繰り返される、という構成で物語が進むので、分量の約三分の一から半分弱くらいまでは啄木伝みたいな感じで、思索部分はさすがに難しいばかりで退屈、という一面もありました。
一般人としては啄木に対して持つイメージはあくまでも抒情歌人なのですが、大逆事件とか、あまり知らない一面を垣間見て驚いた部分でもあります。
時代は常に閉塞していて、青春は常に重苦しく憂鬱で、その中で懊悩しもがきながら自らの生き様を追い求めるものなのでしょうか。それこそ、濾過されている青春像なのか。
ストーリー展開としては随分回り道な感じでしたが、ラストではかなり熱い展開。前半の伏線を回収しつつ○○を焼き捨てて、決して後ろ向きではない力強い結末に至ります。……少なくとも私はそう受け取りました。
評価は★5。読むの大変だけど素晴らしい作品。それだけです。