田園交響楽 (新潮文庫)
ある疑問が、私の中に、何度も巡る。
手術の成功により、盲目ではなくなったジェルトリュードが、投身したのは何故か?
物語を、表面的に読む限りでは、一定の結論が考えられるが、それでも、キリスト教精神に反する。
当初は美談の様に見えるが、実は悲壮だ。
そして、根本的な疑問を残して、物語が閉じられる。
その答えは、我々各人が、自分の心の中に、見つけるしかない。
当初、盲目のジェルトリュードには、何でも見えるのだと思った。
人の心や、風景さへも見えるのに、語り手である牧師には、それが見えないのかと思い、もどかしく感じた。
ところが、そうではなく、牧師は、すべてが見えていたにもかかわらず、自らの心に蓋をしてしまった。
比較的短い物語に、著者は特定のテーマを集中させている。
そのため、展開が急過ぎる様な印象も受けるが、むしろ、その方が、テーマが浮き彫りになる。
本作品は、人の心の内面の、さらに内ら側に迫る。
エロイカ 英雄交響楽 [DVD]
偉人を語る名作は数多くあるが、この作品もその中のひとつと言えよう。 冒頭は交響曲で始まり、熱愛、ソナタ、最後は歓喜で結びベートーヴェンファンならずとも偉大なる作曲家であったことを彷彿させられる。 誰しも後日もう一度CDでフルコーラスを正聴したくなる。
ただ画中の主人公のソロ演奏が次第にBGMの音響と融合しカットシーンに至る所は、古い手法であるなと感じた。またモノクロによることで現代人の感覚に絶景やノシタルジーがどこまで浸透されるかが問題である。
田園交響楽 [DVD]
アンドレ・ジッド原作の同名小説の映画化です。
ヒロインのジェルトリュードを演じるのはミシェル・モルガン。本作出演時は26才。豊かなブロンドと大きく青い瞳が印象的ですが、その瞳はいささか狂気を感じさせるます。本作で彼女はカンヌ映画祭の主演女優賞を獲得しています。一方、ジェルトリュードを導き、やがてひとりの女性として愛してしまう苦悩の牧師を演じるのはピエール・ブランシャール。日本ではほとんど知られてはいないでしょう。出演時は50才を過ぎていましたが、まるで英国のローレンス・オリヴィエのような、非常に文学的な匂いのする顔立ちをした役者です。
牧師とその家族の愛情に支えられ(牧師の妻だけは違った)、美しく清い女性へ成長するジェルトリュード。共に成長した牧師の息子ジャックは彼女を愛します。しかし、目の見えない彼女は、自分が描く生涯の伴侶は心の面でも肉体の面でも牧師であると信じていました。牧師もまた、それが許されぬものと知りながら、言葉には出せずとも、彼女への想いを断ち切ることはできませんでした。それとなく、ジェルトリュードからジャックを遠ざける牧師。そんな夫の心の内を、そうなる以前から予測していた妻…。
やがて、ジェルトリュードは手術を受け、生まれて初めて光を得ます。彼女は、愛する人の姿を自分の目に映すことができる瞬間を待ち望んでいました。そして、手術は成功します。ところが、彼女は牧師ら姿を見るなり、思い描いた姿が彼ではなく、息子ジャックであることを知ってしまうのです。彼女は心の中で思い描いた人物との結婚を望んでいました。光を得た代償はあまりに大きく、彼女は罪の意識に彼女は押しつぶされ、ほどなく川に身を投げてしまいます。
原作の「罪は生き、我は死にたり」「もし盲目なりせば、罪なかりしらん」を超える、まさに映像化されたゆえの次の台詞に、私は衝撃のあまり、震えました。
川へ向い、息絶えたジェルトリュードを発見した牧師は、冷たくなった身体を抱き上げて、共にやってきた者たちに言い放つのです。「俺の女だ。どいてくれ」