秀吉の枷〈中〉 (文春文庫)
「信長の棺」の続編にあたる作品でぜひ前作品を読んだ上で本書を読むと一層おもしろい。秀吉の信長を恐れる心情がやがて信長を超える自信となっていく様子が見事。しかし生涯信長の遺骸行方に翻弄させるところはこれまでに無かった展開で読み応えがある。歴史小説225作品目の感想。2010/02/06
朗読 日本童話名作選「でんでんむしのかなしみ」
自宅介護している病気の父親のために購入しました。
たくさんの話が入っていることと話し手さんの話し方が非常に聞きやすいので良いと思いました。
父親は、それなりの年齢のため、知らない話が多いかもしれませんが、基本的に童話ですので誰でも楽しめる内容だと思いました。
黄金の日本史 (新潮新書)
著者の加藤さんは、サラリーマン生活の後、2005年作家としてデヴュー、時代小説を中心として多数の著作があります。
キン、埋蔵量が少なく、錆び難く、軟らかく加工しやすく、黄金色に輝いていて人の心を魅了する為、古代から権力、富の象徴、そして、貨幣として使用されてきました。本書は著者の加藤さんがこのキン(なお本書ではお金と区別する為、鉱物としての金をキンとして使用しています)を縦軸にして、加藤流に日本史を見直したものです。
749年、陸奥国司の百済王敬福がキンを発見し、砂金900両を朝廷に献上しました。これ以後東北のキンは、装飾、遣唐使で留学する人の滞在費(1回の航海で120キロくらいのキンが必要だったらしい)として使用されました。次いで、奥州のキンを独占した藤原氏、それを滅ぼしキンを奪取した源頼朝、少し時代が飛んで足利義満、そして、戦乱を経て、次にキンを握ったのは豊臣秀吉、さらにその死後キンを奪った徳川家康・・・金鉱が続々と見つかり、精錬法も進化し、幕末には大量の金が日本国内にあったはずですが、実際は殆ど残っていませんでした。著者は、この大部分が、連綿と続いた(遣唐使時代から)おろかな貿易が原因だと考えています。特に幕末は、金銀の交換比率の違いでかなりの量のキンが流失したと考えられます。そして、明治、第一次世界大戦後の1920年、日本は866トンの金を保有します(これは、現在に至る最高値です)、太平洋戦争、敗戦、おろかな戦争で日本のキンは底をつきましたが、朝鮮戦争で回復への道どりをたどります。著者は、日本のキン保有量が増えないのは、愚かな米国国債買い支えにあると考えています。
作家だけあって非常に面白い内容の本になっています。しかし、キンだけで総てが動いていると考えるのは極論過ぎるかなとも思います。例えば、政府のキン保有量はいかにも少なく、これは大問題だと思いますが、日本にあるキンの総量は、6800トンで(都市鉱山とも称されます)、これは世界の埋蔵量の16パーセントを占めるといわれています。
明智左馬助の恋〈下〉 (文春文庫)
本能寺の変に関し、私は単純な光秀単独犯説を採るから、変それ自体及びそれに至る状況についての著者の説とは相容れない。そのことは「信長の棺」のレビューで書いたから詳細は繰り返さない。この下巻で私が気になったのは信忠が信長の愚息とされていることだ。信忠は武田家殲滅戦で活躍し、信長が家督を譲ったほどの優秀な男というのが私の理解なのだが。変に巻き込まれた時に判断ミスがあったとしても。
しかし、著者の仮説に従って進行する本能寺の変を描く筆致は緊迫感があり、読ませる迫力がある。そして何より歴史を大きく動かす歯車の役を終えてあっという間に滅亡した明智一族の行動を、哀悼の念を込めて丁寧に記しているのには共感を覚えた。坂本城落城までを書く必要があり、そのためには左馬助が本書の主人公でなければならなかったのである。彼はまた、山崎の合戦に加わらず、安土城での留守役だったからこそ、安土城に込めた信長の、常人の発想の及ばない意図を知るのだが、それが何かは各自読んで確かめてほしい。それにしても、あの有名な論争がここに結びつくとは。著者の想像力の豊かさには唸らされる。
大いなる旅路 [DVD]
国鉄マンの生涯をリアルに描くため、主演の三国連太郎は、実際にレールの上を走っている本物の蒸気機関車の罐を焚いている。(このシーンのために国鉄の研修所に通って機関助手の訓練を受けたそうだ。その甲斐あってブルーリボン主演男優賞を受けた)
機関車が雪崩に巻き込まれて脱線する場面は、当時の国鉄総裁の許可を得て、設定年代当時の蒸気機関車の実物を走らせ、実際に脱線転覆させている。
実に真剣に作られた映画で、鉄道ファンならば一度はご覧になった方が良いと思う。
また、10代の研修生から定年間近までを力技で演じきる三国連太郎と加藤嘉、まだ若々しく凛々しい高倉健、そして一瞬誰だかわからないくらいスマートな二枚目の梅宮辰夫と演技陣も素晴らしく、見ごたえがあるので、一般映画ファンにもおすすめできる。