娘をもつ頑固な父親の悩みと喜びをしみじみと描
浪花千栄子 ランキング!
溝口監督の作品を鑑賞するのは「雨月物語」に続いて本作が二作目である。
若尾文子の初々しさ、木暮美千代の色気も画面から香り立つが、やはり浪花千栄子の迫力が一番印象的だ。自分に盾突く木暮に対しては、きっちりと仕事を干し、木暮が妥協した後は、きっちりと仕事を回し始める。ある意味、潔いとも言える対応ぶりに、花街を生きるということはどういうことかを見せつけるものがある。
それに比べると、出てくる男性は見事に全員情けない。色と欲と権力にまみれた姿、と書くとまだ格好良いが、本作で描かれる男性はもはやコミカルとしか言いようがない。凄みある男を一人くらい出してきたら、この映画もかなり雰囲気が変わるのだと思うが、溝口監督はそうはしなかった。ということで、この映画では男性は全て笑い者である。
木暮は妥協して花街を生きることを選んだ。彼女の将来が浪花千栄子ということになるのかもしれない。浪花にしても老獪で冷酷な置き屋の女将というだけではない。きちんと義理とけじめを付けた上で、人情味もほのかに漂わせている。この作品は木暮が若尾を教育する話ではない。浪花が木暮を一人前にする話なのだろう。
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「好きだ!」とか「愛してる!」の台詞はほとんどでてこない。恋愛をはぶくんでいく過程も描かれない。だから、登場人物の二人がなんで相手を好きになったかも明確にはわからない。
しかし、傑作の「恋愛映画」であることは間違いがない。映画が終わった後は、人間の情欲の奥深さに圧倒される。
「おばはん、よろしゅう頼んまっせ」。雨の降る中、すべてを失った柳吉が蝶子になにげなくこの台詞をかけるラストシーンに向けて、物語は進行する。
事件らしい事件がおこるわけでも、複雑な人間関係があるわけでもない。でも、二人とも、社会や他人と折り合いがつけることが困難で、少しづつ何かを失っていき、相手以外の居場所をなくしていく過程が物語の主軸である。
世界の中心で愛で叫べば、そこに恋愛が成立するほど人間関係は甘くはない。「愛を叫び」恋愛を獲得するのではなく、喪失を繰り返し「これ以上どこにも行けない場所」が見つかる(見つけるのではなく)。恋愛の本質などわかるはずもないけれど、私はどうしても、本作や「浮雲」や「洲崎パラダイス 赤信号」など日本の傑作恋愛映画が描いてきた恋愛に惹かれるのだ。
ちなみに、その喪失の過程での森繁久弥の「少しずつ行き場を失っていく」演技が本当に素晴らしい!特に、実家から勘当されることを聞かされ、蝶子の部屋に戻り、昆布を煮るシーン。ただごとではない。ぜひ、映画館の大画面で見て欲しい。
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