シリアで過激派組織「イスラム国」がロシア軍のパイロットが乗ったヘリコプターを撃墜したとする映像を公開しました。 映像は「イスラム国...
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2015年11月13日パリ同時多発テロ。この衝撃は、世界が新しい暴力=野放図な無差別テロの時代に突入したことを意味する。本書はISによるテロ攻撃、ならびに彼らに刺激を受けて「拡散」した暴力行為のありようを、イラクおよびシリアの内戦、無政府状態にある一部のイスラム圏、世界各地、ひいては「十字軍」である欧米社会を舞台に取り上げる。さらにISの結成に至るムスリム・テロリストの系譜、今後さらに泥沼化=IS化の懸念される地域を予想しつつ、包括的な対応を考察する。なお、本書p32に登場するパリ同時多発テロ実行犯の協力者=サラ・アブデスラムは、4か月あまりの当局の執念の捜査により、2016年3月18日にブリュッセルで逮捕され、パリへ移送された。事件解明への一助となることが期待されるな。・ISとは何者か。イスラームを歪曲し、原始イスラムへの回帰とその手段としての戦闘を是とする「サラフィ・ジハード主義」(著者)を、リアル社会で追及する武装集団(p121)である。その極端な活動は、日本人を含む異教徒の殺害を躊躇しない。イラク・シリアの支配地域(北海道より広い!)ではタリバン以上の恐怖政治を住民に強い、イスラム圏においてはフランチャイズ化(p98)を進め、世界中のムスリム・コミュニティでテロ志願者を幇助・扇動する。まさしく、ならず者集団といえよう。・パリ同時多発テロの実行犯はベルギー系フランス人である。ブリュッセルにIS志願者を多く要する理由の一つとして、著者はベルギー移民社会に潜伏するリビア人過激派人脈の存在を例に挙げ(p35)、今後は、西欧各地に拡散した「抑圧されたムスリム移民2世・3世」によるテロの大流行期に入ると警鐘を鳴らす。ISに賛同した地元民による、グローバル・ジハードの戦列の脅威。奇しくも2016年はアメリカ大統領のレーム・ダック期にあたり、抑止されない現実が見えてくる。・2015年からメディアに現れたトルコ・欧州への越境難民。その原因はISではなく、シリア政権による「自国民への無差別爆撃」にある。親子二代に渡って恐怖政治を強いてきたアサド家は、中東における「北朝鮮の独裁政権と同じようなもの」(p165)。自国民の処刑者は10万人以上。このような状態が放置されているのは複雑な要素=クルド人、イラン、パレスチナ人、ヨルダン、アメリカの協力、抗争が重層的に絡み合い、シリア政権を強力に支持するロシアとイランの存在によるものだが、この無秩序と、アサド家による反体制派自国民への軍事攻撃を「テロとの戦い」と言わせるための方便が、ISをここまで増長させた主要原因である。著者はアサド政権の放逐(p161)こそ、IS弱体化の必須条件であると強く説く。・「アラブの春」で独裁政権を倒したリビアとイエメンが危ない。特に無政府状態に陥ったリビアは「北アフリカ全体のイスラム過激派の聖域」(p100)となりつつあり、リビア版ISの誕生が懸念されるという。・ISではなく、イラク北部のクルド労働者党の拠点を空爆するトルコ。同国政府とクルド人勢力の対立が激化し「トルコ国内で大規模なテロが頻発する懸念」(p114)の通り、2016年3月19日にもイスタンブールでテロが発生した。EU加盟なんて遠い夢でしかないな。著者は、今後発生する地域紛争に国際社会の介入が行われず、泥沼化する可能性を警告する。国力を増強したロシアによる、アメリカ主導の世界秩序への挑戦。いまや安保理は機能せず、国際紛争解決に支障をきたす状況が顕現しているという(p116)。これに中共が加わり、冷戦期同様の状態になるとしたら……。「無秩序状態の常態化」(p117)。PKOでは無秩序な武装勢力への対応は困難を極めるだろうし、紛争地域における「非人道的な」恐怖社会が野放しとなる可能性すらあるのか。たとえそうであっても、過激思想の集団(p195)へは対峙するしかない。2015年11月に創設された国際テロ情報収集ユニットに頼るだけではなく、日本国民の取り組むべき指針が本書にはある。「暴力を止める国際的な努力」(p205) たしかに傍観してはいられない。 イスラム国「世界同時テロ」 (ベスト新書) 関連情報