樋口有介 ランキング!

樋口有介 刑事さん、さようなら (中公文庫)

 あ〜あ、樋口有介も今流行の警察小説書いたのか、売れるものを書けと編集者に言われて書いたのか、という気持ちで読みはじめたのだが、これが大間違い。

 ストーリーは二つの話が平行して進む。

 ひとつは、事なかれ主義の警察官が、同僚の自殺事件を追うという内容。警察官の汚職のエピソードなども織り込まれるものの、一般の警察小説のように、「悪徳警官」も「ヒーロー」もいるわけでない。平凡な警察官が事件を淡々と追いかける、という内容。
 もうひとつの話の背景は、風俗街とそこで働く人たち。養護施設で育った若者、売春婦、小説家崩れの風俗ライターたちの物語。「アルジャーノン」風の若者を中心に、風俗街の日常が淡々と描かれる。

 なんか、警察小説としてはのんびりした展開だな、と思うのだが、これは作者の周到な仕掛け。

「わたしなんか、死んでもいいの・・・。
わたし、医者にも看護婦にも、ほかの誰にも、触られたくないの。
わたしの躰にも、わたしの心にも、もう誰にも、触られたくないの」

 淡々と続く二つの物語は、売春婦のこの悲痛な言葉をきっかけに交錯し、そして衝撃的なラストを迎えるのである。鈍行列車に乗っていたら、いつの間にかにジェット・コースターに乗っていた気分、とでもいうのだろうか。

 通常の警察小説の格好をしているけど、これは反警察小説。著者なりの、警察小説へのアンチテーゼか。

 結末はとても悲しい。でも、なぜか癒される読後感。悲しい結末の向こうに、希望が透けて見える気がするのは私だけだろうか。 刑事さん、さようなら (中公文庫) 関連情報

樋口有介 片思いレシピ (創元推理文庫)

他作品読んでません。シリーズ物をいきなり途中単品で読むと、「当然分かってる設定」が引っ掛かってイラついたりするもんですが、本書は特に気になる事なくフツーに楽しめました。スピンオフ物だからかな?
殺人事件にしてはノリが軽すぎ、被害者「どうでもよし」扱いに、あんまりじゃない?苦笑…と思いつつ、さくさくと読めました。 片思いレシピ (創元推理文庫) 関連情報

樋口有介 笑う少年

切ないけど前向きなのが樋口先生の作品で共通して感じていた好きな部分でした。しかし、この作品にはそれが感じられず残念です。「風町サエ」というキャラクターは好きなので、次作には期待したいです! 笑う少年 関連情報

樋口有介 風少女 (創元推理文庫)

樋口有介作品の最大の魅力は「語りと会話」にあると思います。

語り手は総じてクールでドライ。
屈折した物言いの中に諦念や自嘲をにじませながらも、
本当に大切なものは手放さない、という強固な意思を感じさせます。

そして、主人公と、味のある登場人物たちとの会話が実に秀逸。
ユーモアとウィットに満ちた会話は、いささか遊戯的ではあるものの、
主人公はそこで、冗談や軽口の衣にくるんだ本音も吐露します。

そのことにより、共同体から外れている主人公と、
生活や人生に縛られた人々とのズレや齟齬が浮き彫りにされ、
鮮やかな対照がなされる、という構造になっているのです。


ぼやき混じりの軽い語り口、というのはライトノベル隆盛の昨今、珍しくありませんが、
樋口氏ほど完成度の高い文体を持つ作家は、現在でも多くはないでしょう。
(私見では、米澤穂信氏が最も近いです)

また、ヒロインの人物像も、いわゆる「萌え」キャラの先駆けといっていい造形であり、
この点でも、ライトノベル要素をフライング気味に先取りしているといえます。


そんな早すぎた作家である樋口氏の第2作『風少女』は、
法月綸太郎氏が、著者の「原点」であり「ふるさと」としている通り、
入門書として最適です。

ぜひ本書から、樋口氏のさわやかで切ない世界に触れてみてください。

風少女 (創元推理文庫) 関連情報

樋口有介 猿の悲しみ (中公文庫)

『女版 柚木草平(著者の別シリーズ)』と評するのは少し安直すぎる気もするのですが,シニカルな言い回しや行動原理など,良くも悪くもこの著者の作品であるように感じます.とはいえ,その柚木氏らのカメオ出演をはじめ,主人公が女性だからか地の文の様子,さらには,世相を反映させたようなやり取りには,これまでとは違った印象を受けます.また,事件も万事解決とまではせず,いくつかの思惑の絡んだ『シナリオ』を用意し,さらにそれを書き換え,妥協点を探りながらの『決着』には,苦々しさが後を引くよう.このほか,異色の経歴や表と裏の顔,そして時には荒っぽいやり方も辞さないかと思えば,その描写にくどさは見られるものの,息子への溺愛ぶりなど,主人公もなかなかにユニーク.反面,彼女の設定は序盤から詰め込みすぎで,説明調が続く出だしが少しばかり気になり,二つの事件が並行する話運びも,繋がりがないため,こちらも散漫になった感は否めません. 猿の悲しみ (中公文庫) 関連情報



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