恐怖&ホラーシリーズ 怪奇ホラー編 (ホーム社漫画文庫)
丸尾末広さんの犬神博士が文庫本で読めて良かったです。
有名な漫画家さんの作品が一冊に詰まっていて楽しめました。
ホラー漫画は苦手な私ですが、
あまり恐くなく読むことができました。
悪魔が町にやって来る 恐怖!!ブタの町【日野日出志ショッキング劇場】
ひばり書房から出版された描き下ろし長編作品です。一言でいえば、不条理ホラーという事になると思う。ある晩突然、マスクを被り馬に乗った謎の集団が、武器を手に町を襲撃してくる。主人公の少年だけは命からがら何とか逃げのびるが、他の住人は殺されあるいは捕われの身となってしまう。捕えられた人たちは不思議な力で豚に変身させられ、家畜として扱われるのだという。彼らの正体はいったい…!?
いきなり現代の町が支配されてしまう理不尽さだとか、人が豚にされてしまう不条理な恐怖だとかは良く出ていると思う。それに絵が非常に良いです。独特の生々しい絵柄で、悪夢的世界を描き切っています。豚になることを拒否した人々は目玉をくりぬかれ、釜でゆでられ、ギロチンで首を飛ばされる…。まさに地獄絵図です。
正直ストーリー自体は特筆すべきものはなく、先生のひばり時代の傑作群の中では目立つ作品ではありません。謎の残るオチにも絶対賛否あると思います。これをどう解釈していいものか…。しかしそれでも、これは見逃すべきではない作品だと自分は思っています。
マンホールの中の人魚 ~ザ・ギニーピッグ [VHS]
シリーズ中どれか、ということになれば、やはり日野氏監督の2作品になると思う。本作もそうだと思うが、事件との関連性や描写の過激さばかりが取り沙汰されて、作品としてのきちんとした評価がされないのは悔しささえ感じる。日野氏の作品は事件とは関連がなかったのにね…現代はシリーズ以上の凄惨で陰湿なテーマや描写の作品があって、今の若い方々にはシリーズの作品はむしろ『かったるい』と感じるかもしれない。でも、まあ、20年以上も前の作品なのでねぇ…
事件の影響で映画の製作が頓挫したとは、悲しい話ですね…
恐怖のモンスター 怪物の子守唄【日野日出志ショッキング劇場】
表題作「恐怖のモンスター(78年)」は、ひばり書房時代の代表作の一つです。全3話の連作形式で、全部で100ページくらいあります。
腐乱犬酒多飲(フランケンシュタイン)博士は狂気の研究の末、腐った深海魚から生命体を創り出す事に成功します。だがそれはあまりに不気味なモンスターで、彼はその醜い姿ゆえに迫害される事になります。そしてそういった世の理不尽さや彼の孤独を、本作ではユーモアやパロディーに包んで表現しています。
ただ最終話ではギャグ要素は一切なくなります。前話で人間に殺されたモンスターは、海で赤ん坊として再生し復活します。子を亡くし気がふれた女に拾われ、その胸でスヤスヤと眠る怪物の子供。だが幸せは長くは続かない…
このモンスターは見た目に似合わず愛嬌があり、読んでるうちにすごく愛着がわいてきます。作者自身、彼のことが大好きなんだろうなってのが伝わってくるような作品です。
後に多数の漫画家が参加するアンソロジー「HOLY 2(角川ホラー文庫)」に収録された際には、各話それぞれ「愛しのモンスター」「愛しのモンスター2」「さらば愛しのモンスター」と改題されています。“恐怖の”よりも内容にあっていて、良い改題ですね。
「山鬼ごんごろ」は残酷日本昔話といった感じの、名作中の名作。これも本書の大きな目玉です。
「ゆん手」は左腕が意志を離れて勝手に動き出すようになり、次第にその行動がエスカレートしていき…というホラー作品です。「鶴が翔んだ日」は、一面の銀世界広がる雪国を舞台とした、静かな感動のある叙情幻想作品です。
本のメインタイトルが「怪物の子守唄」となって大きく表示され、表紙のイラストも変わりましたが、従来の「恐怖のモンスター」と同内容です。
「恐怖のモンスター(全3話)」
「ゆん手」
「鶴が翔んだ日」
「山鬼ごんごろ」
実存ホラー漫画家 日野日出志を読む―母胎回帰と腐れの美学
この本は、著者が日野日出志の作品の中から、「蔵六の奇病」「赤い花」「水の中」「幻色の孤島」についての批評を綴る他、「作品リスト」「単行本目録」「写真年譜」、そして、「栞(しおり)」と書かれた、本より少し小さい小冊子(16ページ)が添付されている。
さて、漫画の批評とはどのようなものなのか、とページをめくると、著者は、日野日出志の作品に「母体回帰(願望)」を見るようで、「ここで描かれる○×は、子宮の隠喩であり・・・」といった記述が所々で見られ、多少、くどさを感じる。
しかし、全体としては、それまで気にも留めなかった1コマの中に描かれる「木」や「道」、その配置に作者が込めたであろう意図が推察され、「なるほど、こういう見方もあるか」という気付きが得られ、私個人の作品への思い入れが、より深くなったように思う。
ところで、本としては批評がメインであるものの、個人的にもっとも満足感が得られたのは、批評以外の部分で、作品リストや単行本目録(カラー!)は、発表年月まで記されていて分かりやすいし、何より、作者が生まれたときから現在(本書監修時点:2004年)に至るまでの写真付き記録というのは素晴らしく、しかも、この部分は、日野日出志本人によるものというから、クラクラしてしまう。
作品はもちろん、日野日出志本人に惹かれる方にも、お薦めしたい。