モーツァルト:歌劇「皇帝ティトの慈悲」全曲 [DVD]
このオペラは「魔笛」と並んでモーツァルトの最後のオペラですが、オペラセリアでやや堅苦しいこと、短期間で仕上げたので、レチタティーヴォを弟子のジュスマイアーに任せたことなどで、落ちる作品と考えられ、上演が少なかったのですが、音楽は晩年のモーツァルトらしくすばらしいということもあって近年見直され、とくに生誕250年ということもあって、つぎつぎにDVD化されています。
これまではポネル演出の映画版が決定版と思われていましたが、この上演はキャストがすばらしいので、迷わず購入しました。期待通りすごい上演で、アーノンクール指揮のウィーンフィルもすばらしいのですが、カサロヴァのセストとレッシュマンのヴィテッリアはめちゃくちゃうまくて圧倒されます。とくに1幕のフィナーレのセストの「行きます!」とその後のヴィテッリアとの重唱は互いに一歩もひけをとりません。
ザルツブルグのフェルゼンライトシューレをうまく使って人間関係と心理的葛藤に焦点を当てた現代的な演出なのですが、ひとりよがりな演出ではなく、音楽とピタリあったすばらしい上演です。ローマの遺跡を使って時代背景を重視したポネル演出版と合わせてこの上演を見れば、このオペラが決して落ちる作品ではなく、それまで何度もオペラ化されていた台本を使いながら、人間の心理に重点を置いた新しいオペラに仕上げようとしたモーツァルトの意図もよく理解できると思います。