日輪・春は馬車に乗って 他八篇 (岩波文庫 緑75-1)
中学生の時、教科書で「蠅」を読んだ。
その印象が頭から離れず、10年以上たった最近この本を買いました。
文章はシンプル、無駄を省いている様な。しかし描かれている情景が映画のように、くっきりと次々に浮かび上がってくる。
日本語の力強さと同時に、温度や湿度まで味わえます。
文学は苦手な人でもすんなり読めます。
教科書に載った小説
店頭でタイトルにすっとひかれ、編者が「クリック」の佐藤雅彦さんだったので
すぐ決めました。期待を裏切りませんでした。
教科書に載っている話ってどうして面白いんでしょう。
お父さんから手紙を受け取る話、どばどば泣きました。
「ベンチ」では衝撃といっていいほどの読後感を覚えました。
「教育」を目的として選ばれた小説ですから一線を踏み外さない
内容ではあると思いますが、それぞれが不思議な力にあふれたお話だと思います。
ちなみに自分が学んだ教科書小説で一番印象に残っているのは宮沢賢治「やまなし」です。
機械・春は馬車に乗って (新潮文庫)
このレビューは特にこの短編集に収められている「春は馬車に乗って」について書きたい。ある夫婦の物語であり、妻は病にふせっている。夫は彼なりに献身的な看病を続けるが、妻の病状は悪化し・・・。ストーリーは暗いが内容はそうでもない。刻一刻と死に向かって進んでいく妻ではあるが、体が弱くなればなるほど挑戦的に夫に罵声を浴びせ、難くせをつける。夫も夫で死にゆく妻を見つめることに逆転した快楽をみつけようとする。それぞれに生きることをあきらめず妥協しない夫婦の生きざまが鮮烈に記憶に残る。技巧派として有名な横光だが、彼の作品の最もすばらしい部分は私小説的な内容においてこそ生きているとぼくは思う。同時に収録されている「御身」などでもそうだが、彼の悪く言えば単純、よく言えばまっすぐな性格が、ときに気持ちよく、ときにこっけいで、ときに悲しい。そんな横光の魅力が遺憾なく発揮された美しい短編。ちなみに川端康成がしょっちゅうエッセイの中で彼に触れているが、川端と兄貴肌の横光という組み合わせが面白い。よければそちらもどうぞ。