落日の王子―蘇我入鹿 (上) (文春文庫 (182‐19))
2005年お正月に放送された「中臣鎌足」を観て、この時代に興味を持ち買いました。時代小説では江戸時代や幕末ものが好きだったのですが、今回はまりました。特に下巻に入って大化の改新に至るストーリー展開は、ドキドキハラハラしながら一気に読み進められます。鎌足側を応援しつつも、敗者ではありながら、人間くさい蘇我入鹿もどこか憎みきれず、最後は切ない感じがしました。
また、この時代の日本は、朝鮮や中国から政治や軍事など多くを学んでいたことなど、今このご時世に改めに考え直す良い機会にもなりました。若い人にも読んでもらいたい一冊です。
天翔る白日―小説 大津皇子 (中公文庫)
天武朝における王位継承問題で複雑な立場をとる大津
皇子の苦悩と失墜を描いた歴史小説である。
一方で、自ら背負った過酷な運命を切開こうと、大津
と御方の二人の皇子の素晴らしい信頼関係を、見事な
構成で描写されている。
豊かな想像力と史実に基づいた日本の歴史に重ね合わせ、
緻密に錬られた著者・黒岩重吾氏が見事に描かれている。
何気なく、読者は無意識のうちに1300年前の律令政治の
確立をめざした飛鳥の地に連れて行かれた錯覚に陥るの
である。
大津が持って生まれた人望と政治手腕が、やがて朝廷内で
危険分子と見なされて、権力の外に追いやられる姿は、
現代社会にも通じるものがあるのではないだろうか?
大津皇子を慕い、最後まで献身的に尽くした御方皇子の
人生がとても切なく、見事に描写されているのだ。
このストーリ展開は史実なのか?という、史学者の声が
聞こえてきそうだが、この小説には全く不要なのである。
大津と御方皇子の絆が、中央権力に立ち向かって行く姿勢
に、深く共感できる充実の一冊である。