とんでもないおきゃくさま―グリム童話
いたずら好きな「おんどり」と「めんどり」のお話。おんどりとめんどりは、アヒルのくるみを全部食べておきながら、自分たちの車をアヒルにひかせて、途中で同乗することになった「まちばり」と「ぬいばり」たちとともに、一軒の宿屋に泊まることになった。そこで、おんどりとめんどりが泊めてもらったお礼にしたこととは?ほんとに、とんでもない、お客様です。こんな、いたずらをしておきながら、ばちがあたる場面がでてこないのが教育的にどうかなとは思いますが、楽しい話です。なぜ、「ぬいばり」と「まちばり」っていうのが出てくるのかは、読めば分かります。
バーナデットさんが挿絵をしているグリム童話の中では、短いお話で、小さなお子さんでも楽しめます。ほとんど平仮名で、漢字も小学1年生で習うものに読み仮名がついています。
バーナデットさんの絵は色鉛筆で描いたような優しいタッチで、丘の風景、夜の風景、宿の中の様子がとても素敵に描かれています。登場人物は少ないのですが、挿絵には本文中には出てこないハリネズミやウサギや小鳥やリスなどの小動物が細かく描かれていているし、宿の中の家具や雑貨など、絵をじっと見ていても飽きません。
マーシーの夏 (集英社文庫)
この作品はヤングアダルトに属するのだろうか?
17歳、高校を卒業したばかりのマーシーは、就職前の最後の夏休みをぼんやりとすごしていた。父を亡くし、下宿屋を営んでいる母子にはカレッジに行く学費もない。
しかし、下宿人の人形作家オメリアヌクの死と、新しくやってきた下宿人のモデルのフォリーの登場により、マーシーの夏は大きく変わり始める。
やがて、マーシーと下宿人たちはオメリアヌクの残した人形を使って人形劇場をオープンする。そしてそれぞれが自分のすべきこと、やりたいことを見つけ、前に向かって歩き始める。
あらすじを書くと、ごく平和な物語のような感じがするが、ドロシー・ギルマン氏は人間描写がとてもうまいのだと思う。どろどろとした人間関係はなくとも、人の心には表面に出ない嫉妬心や不安があるのだと頷かされる。『おばちゃまシリーズ』もそうだが、物語の設定に現実味がなくとも、人間描写にリアリティがあればジャンルを越えて心に残る作品になるのだと思う。
原書は未読だが、翻訳家の柳沢由美子氏の読解力、日本語力も素晴らしいのだろう。