楼蘭王国―ロプ・ノール湖畔の四千年 (中公新書)
楼蘭といえばシルクロード。
そんなすり込まれたイメージがある。
某放送局の「シルクロード」は中国との協力で制作していたし、そもそも楼蘭のあった地は現在は中国領、加えて言えば「楼蘭」という名称も漢字表記。こういったイメージは楼蘭を中国文明と深く繋げて考えさせてしまう。
しかし、これも有名な「楼蘭の美女」。
金髪のインド・ヨーロッパ系の女性であることは少しでもこういったことに興味がある人は知っているはず。
さらに木簡といえば漢文資料というイメージが強いが、実は西域からはスタイン始めカローシュティー資料も多数収集されている。
実は西域は中国文明の外の世界であったのであるが、世間では「シルクロード」のイメージが強く、実態はあまり知られていない。
さまよえる湖に関するプルジェヴァルスキーからヘディンまでの論争、ロプノール地域の多数の城塞・都市のいずれが王国の首都であるか、湖の移動と都市の移動、ミイラの様式と民族など古典的命題から新しい課題まで楼蘭に関する重要な論点を丁寧にわかりやすく著述している。
また、ガンダーラ語文書の解読もこの手の新書ではあまり見ないもので、西域でどのような文化が栄えていたかを考えるうえで非常に参考になるものである。
西域は我々のイメージの通り、文明と民族の十字路である。
これまでは西域については学問的水準の問題もあってだが、中国文明からの視点で紹介されることが多かった。しかし、西域は、中国文明はその有力勢力であるとはいえ、土着・外来を含め多くの文明と民族交わる地であった。イスラム・トルコ・中国といった現在の西域に色濃く根付く勢力の到来以前の土着の文化や民族を探るこの書の試みによって西域の多様性がさらに鮮やかに蘇ることになるだろう。
AV黄金時代 5000人抱いた伝説男優の告白 (文庫ぎんが堂)
以前から代々木忠の書籍で、著者である太賀麻郎のことは知っていた。
彼の出演ビデオは、一度だけ見たことがある。
AV女優が彼に抱かれ、彼の優しさに触れ、涙を流していたことをよく覚えている。
私がもし女だったら、やはり泣いていただろうと思えるくらい、彼の優しさは画面から溢れていた。
そんな彼の書いたこの著書は、私の想像を絶する内容だった。
想像を絶するというより、読んでも彼の世界が想像できない、と言ったほうがいいかもしれない。
私や多くの一般人の正反対の人のような気がしたからだ。
実際に読まれれば分かることだが、彼は自分を守るということをしない。
誰でも恐怖という感情があり、いくら利己的と言われても醜悪と言われても、自己保身に走ってしまうものだ。
しかし、彼はそうしない。
彼には、自己保身しようとする醜い自分と戦って打ち勝つ、という感覚すらない。
それが当然であるかのごとく、自己保身せず筋を通す。あるいは、縁ある他人に力を貸す。
彼には、夢や理想や目標とか人生プランといったものがない。
彼には、過去はあるが未来がない。
未来を持たない人なのだ。
だから、人のためには人肌脱ぐくせに、自分の人生や生活を守ろうとしない。
自分の人生の一寸先がどうなろうと知ったこっちゃない、といった風情だ。
時代とともにAV女優はメジャーな存在になり、人気AV女優はタレントのような扱いになった。
彼はある事務所社長から「AV女優に手を出すな!」と言われた。
付き合っているAV女優について、「ずっと付き合うなとは言わない。今だけ距離を置いてくれよ」と言われた。
お客さんは、AV女優を一夜の恋人のように思って観るんだから、と。
ビジネスとして、よく分かる話だ。
大人の事情、ってやつだね。
しかし、彼はこう言う。
『俺は何も答えなかった。別れるとも付き合っていくとも。正直、そんなことはどっちでも良かった』
『俺は今しか興味がなかった。俺は今しか理解できない。一年先なんて、永遠の謎のような気がした』
彼は彼なりに筋を通している。自分からAV女優を口説くことは絶対しない。
しかし女から誘われれば、AV女優であろうと誰であろうと(美人でもブスでも)一切断らなかったし、自由に寝た。
それは、『女から男を誘うことは、勇気のいることだ。だから、それを尊重したい』という彼の優しさだった。
どんなに自分にとって不利になろうとも、都合悪くなろうとも、そんなことはどっちでも良かった。
彼は、「今、彼女を好きかどうか」「今、女のために何をするべきか」が全てだったのだろう。
どうしてそこまで出来るのか?
私には全く分からない。
私は自己保身するし、どうしようもなくブサイクな女(失礼!)から誘われたら断ってしまうケツの穴の小さい男だ。
だから、彼は私にとってあまりにもマブシイ。
もしかしたら、彼は『自分』なんて鼻くそみたいなもんだと思ってるのかもしれない。
彼は、絶対に守るべき自己と、絶対に守る必要のない自己とを、人生の最初から知っていたのかもしれない。
どっちにせよ、私には彼は理解しがたい男だ。
追記
彼の出演AVを3本ほど見た(レビューとしてアップしている作品)。この著書と合わせて、太賀麻郎という人物がだいぶ見えてきたように思う。
彼は、恐れることなく本心を守り通してきた男なのだ。
誰でも、ハラの中では「本当はこう思う」「本当はこうしたい」というのがある。
でも、自分が傷つくことを恐れて、なかなかできない。
社会のはみ出し者になったり、人から攻撃されたり、孤立することが怖くて、なかなかできない。
しかし、太賀麻郎は若いころから、本心に忠実に生き抜いた。
彼は最初から、「守るべきもの」を知っていた男なのだ。
そして、意識がすっかりそこへ入っていた男である。
だから、迷いなく突っ走れる。迷いなく、守りぬくことができる。
こんなピュアな人は、なかなかいない。
NHKスペシャル 新シルクロード 特別版 第1集 楼蘭 四千年の眠り [DVD]
タクラマカン砂漠に存在していた楼蘭は、西域のオアシスであり、天山南路と西域南道とが分岐する要の場所にあった遺跡です。
有名な楼蘭故城から100キロほど西へ行ったところにある小河墓遺跡の発掘を通して、我々に知られざる四千年前の歴史を見せようとしています。
シルクロードの中で最大の蜃気楼のような謎の王国を調べる過程は興味深いものがありました。
新疆文物考古学研究所による小河墓遺跡の発掘作業を丁寧に撮影しています。舟をふせたような棺の発掘作業は考古学者でなくても興味を覚えるもので、60代の女性が棺から出てきた瞬間は驚きました。完全な防腐処置が施されたミイラの出現です。
その後に、20代と思われる美しいミイラにも驚きました。人類学者はコーカソイド系、いわゆるヨーロッパ系の白人種だと推察しました。中国で一番古い小麦かもしれない種モミも一緒に出てきたので、農業を営んでいた状況が伺え、ユーラシアの西から東への交易移動を知る縁になるようです。
昔、このあたりを最初に発掘した名高いスウェン・ヘディン探検隊の発掘についても紹介があり、その部下のフォルケ・ベリイマンによって1934年に小河墓遺跡が発見されました。その後、2000年12月まで忘れられていたのも不思議です。
このドキュメンタリーを通して、シルクロードが大昔から世界的な交易のルートとして存在していたことを確認できることになり、より深い関心を持ちました。