砦なき者 [DVD]
この作品はきっとDVD化されるはず!と
ずっと待っていた甲斐があった。
TV放映の後、何ヶ月も体のどこかに棲みついていた感じで・・
誰にでも、どんな分野で働いていても守りたい「砦」がある。
他人の「砦」に入りたい人、入って来られては困る人。
その「砦」はある人にとっては、地位だったり名誉だったり。
うまい汁を吸う人、吸える人、吸えない人。
要領よく生きられる人、生きられない人。
ずるい人、だます人。
更にその上を行き「自分だけは正しい」と平気で生きる人。
自分の中の誇りを守ろうとする人、それを踏みにじろうとする人。
鶴橋監督がTV局、メディア関係者の人間である自分の「砦」を
超えて作ろうとした物。
それが、ドラマではあるが作り物では無い程の緊迫感を呼ぶ結果に。
妻夫木聡という今、もっとも熱い俳優を知ったのもこの作品で、
今をときめく彼が「悪役」というのも注目である。
オレンジデイズやジョゼと虎と魚たちに見る、
恋愛物の中のエロティックではない 悲しいエロティシズムが
全編を通して感じられるので、妻夫木ファンの方は必見であろう。
DVD化されるのを待っていたもう理由の一つは、
本編もさる事ながら、DVDに多く見られる
特典映像にも期待があったから。
作り手や役者さんが、この作品をどういう思いで作ったかを知る事が
出来るかもしれない・・と、この部分も楽しみであった。
本編も本当にいいが、この「特典映像」があるお陰で、
また本編に戻らせてしまうのである。
原作の野沢尚さんは、本当に人の中にある細かい心理を書かせたら、
他には居ないだろうと思うほどの物書きだったので、
お亡くなりになり、残念で仕方ない・・・
野沢さんを思いながら、この作品を見るとまた別の「砦」を感じる。
名探偵コナン・ベイカー街の亡霊 [VHS]
名探偵コナンの劇場版は非常に奥が深く毎回楽しませて貰っています。取り分け、この作品は脚本が江戸川乱歩賞の野沢尚氏によって手掛けられており、コナンシリーズの中でもテーマの大きい一本だと思います。ノアの箱舟の名を負ったバーチャル世界で100年前のロンドンを舞台に進む物語は、フィクションの台頭たるアニメ世界でこそ活きるプロットです。
シャーロックホームズの世界を駆ける子供達の駆け引きは非常に面白く、小さなヒントや背景まで計算された傑作です。現代社会の歪を訴えてくれる大きなテーマを背負った意味で、子供達のみならずその親達や大人達にも一度見て欲しい所。普段の連載漫画ではなかなか味わえない名探偵コナンの異質の醍醐味を味わえる傑作です。
龍時02‐03 (文春文庫)
スペインに渡った龍時が、ベティスへのレンタル移籍で一部デビューを果たす。最後は、龍時がベティスの一員として日本代表と戦う場面。ここで、龍時は日本代表を「壊す」と決意する。日本社会の誰もが自立的動きをしない状況を打ち破る意味をそこに秘める。龍時は、スペインに渡った大久保なのだろうか、それともフランスのルマンで活躍している松井なのだろうか。そういうことを思って読むのも面白い。ただ、作者が亡くなったことはさびしい。この巻でもっと龍時を活躍させて欲しかったと思うのは私だけではあるまい。
深紅 (講談社文庫)
著者の作品は購入前に常に悩まされる。
本を手に取って作品紹介を読む。
重い 重そうだ。
たいていはこのパターン。
けれど類まれな筆力が一旦読み始めると重さに投げ出すことなく
最後まで一気に読ませてくれる。
常に著者の作品に隠されたテーマとなっている家族。
それにメディア批判。
今回もそれは隠し味として存在。
メインは自力救済を禁じた法治国家という仕組みの中で
被害者の人権というものが如何に扱われているか。
そしてそこから生まれるゆがみ。
憎悪の自己増殖。
被害者遺族への感情移入を完璧にさせておきながら
加害者へのそれを直後にさせてしまう凄み。
立場が変わることで正義も変わる、相手の立場にたつということの難しさ。
そしてそれが容易にできないのならせめて出来ていないことを悟って
安易な感情洞察は避ける方がより傷が少ないということを教えてくれる。
秘めたテーマのもうひとつは案外 連帯保証人などという摩訶不思議な制度への問いかけかもしれない。
好みは大きく分かれるだろうが
様々なテーマ 様々な問題意識
これを避けることなく考えさせてくれることを評価したい。