海へ
高木嬢の初めてギター伴奏によるコラボレーション作品です。他のレヴューにも書かれている様に、高木さんは、ポピューラーからクラッシックまでこなせるマルチ演奏家ですが、当盤は、その特技が?、いかんなく発揮されたベスト盤です。特に収録1か月前に初顔合わせしたとは思われない位、福田さんとの絶妙な呼吸は、このCDを聴き込んでしまうことからも本物でしょう。
また、スイスの教会で収録された録音が素晴らしくオーディオマニアにも興味あるCDではないでしょうか。
白鯨 中 (岩波文庫)
メルヴィルの筆力も八木の訳文も、膨大な情報量をものともせず読者を引きずり込む。
ストーリーは一向に進まないにもかかわらず。この力業にはただただ脱帽。
あまつさえ第81章「ピークオッド号、処女号にあう」ではスタッブが
原典にすらないオヤジギャグをかっ飛ばす。これを許した岩波書店って心が広いなあ…。
もちろんギャグやジョークばかりが『白鯨』の取り得ではない。例えば第82章「無敵艦隊」で
母親の乳房にしゃぶりつく赤子の眼差しについて触れた一節からはメルヴィルの
人間に対するただならぬ観察眼・洞察力がうかがわれるし、
第45章「宣誓供述書」の「この世には真実を証するのに虚偽を糊塗するのとおなじほどの
エネルギーを必要とするという、意気阻喪すべき事例にみちあふれているものでありますが」は
現代においてなお痛感される真実だ。
これと言って悩みも無いけど刺激も無くて毎日が物足りないというあなた。
岩波文庫の『白鯨』を手に取って、どこでもいいから適当に開いて読んでみて下さい。
もしかしたら、あなたを突き動かす何かに出会えるかも知れません。
武満徹・響きの海-室内楽全集(5)
武満徹ゆかりの演奏家達が、作曲者の意図を後世に伝えることを目的に開いた演奏会の最終回(第五回)のライブ録音。
”海へ”、も”そしてそれが風であることを知った”も、最も遅いテンポで演奏され、作曲者の気持ちを代弁するかの如く演奏されている決定的な名演だ。
そして、フルート奏者小泉浩がアンサンブルタケミツを代表して挨拶の後、アンコールのような形で、遺作となったエアを演奏している。
ライブのため、最後に咳払いが入っているのは残念だが、この曲を日本初演して8年余、この曲を吹き続けてきた第一人者が、1996年に日本コロムビアに録音したスタジオ録音より、よりこなれて自由な、説得力の強い演奏を見せてくれている。まさしく、この現代フルートの名曲”エア”の決定的名演が収録され、この曲の一つの完成された解釈がここに提示されている。今後、これ以上の感動的で説得力のある演奏が誰からつくられて行くのか、楽しみである。
白鯨 下 (岩波文庫 赤 308-3)
八木先生の大暴れは相変わらず。なんたって「追風に帆かけてシュラシュシュシュ」(P.264)だもん。
さてこの下巻の、それも最終章近くになってようやくピークオッド号は怨敵モービィ・ディックと出会う。
三日間の長きにわたる両者の格闘は緊迫感に満ち、思いもよらぬ伏線を効かせた幕引きへ読者を導く。
個人的に下巻で特に強く印象に残ったのは、理性的なスターバックと復讐に狂ったエイハブの
幾度かの対決であり、エイハブとピップの間に通う親子のような愛情だった。
地上の原理に忠実であろうとする者=人間と、地上の原理から追放された者=狂人とが
交錯して織り成されるドラマ。これほど濃密なドラマでさえも『白鯨』の一側面でしかないのだ。
一捕鯨船の航海を通じて描かれた森羅万象。人間と宇宙への深い考察。
この作品はどれほど言葉を尽くしても語り尽くせない。好き好んでカスタマーレヴューを書いておいて
無責任な言いぐさではあるが、「とにかく読んでくれ」結局のところこうとしか言いようが無い。
少なくとも、私の貧困な筆力では。