パルティアの歴史
1938年に刊行された英語版の邦訳である。前3世紀にイランの一角で興り、現代のイラン・イラクを席捲して後3世紀にササン朝に滅ぼされるまで続いたアルシャク朝パルティア王国の政治史上の諸事件を、当時入手できた限りの史料を使って考証しほぼ年代順に叙述している。一つ一つの記述を取ってみればその後の新史料の発見などによって書き直されねばならぬ点も含んでいるが、パルティア研究を目指すものにとっては必読の書と言える。しかし、英語版の註が削られているので原著との併読をお勧めする。
アーリア人 (講談社選書メチエ)
時代も地域もべらぼうに広い民族の興亡を手際よくまとめた好著。読者にクリアな展望を与えうる実力は一朝一夕では身につかないので、この著者、たいしたものだ。玉石混交の講談社選書からもときにこういう本が出るから、まんざら捨てたものではない。
長大な時間軸の中で固有名が錯綜するので、メモ風の図表や地図があるのは嬉しいが、地図がすべて見開きになっていて、肝心の部分がノドにかかり見づらいのはいただけない(もっとも、これは編集者の不手際)。教科書だからといって無味乾燥なわけではない。『コナン』の背景にキンメリア人の伝説があるだの、露鵬・白露山兄弟はオセット人の末裔だのといった愉快な薀蓄も傾けられていて飽きない。宮崎市定や井筒俊彦の所説に、臆することなくやんわりとダメ出しをする侠気も好ましい。
ペルシア語やソグド人の歴史的・文化的貢献とかイスラーム古典哲学の故地としてのソグディアナといった、実に重要なトピックに目配りが効いているのもすばらしい。さすがにナチスのアーリア至上主義には深入りしていないが、その欠はたとえば横山茂雄の『聖別された肉体』やらゴドウィンの北極神秘主義の本などで補えばよろしかろう。
どの版元も選書のラインナップには苦労しているようだが、せめて本書くらいの水準で揃えていくという気概を見せてほしいものである。
天啓のパルティア 黄昏の王が舞い降りる (B’s‐LOG文庫)
月から、帝国の未来の予言を預かる「月の姫巫女」パルティアは
慣例どおり王子ハルバートと婚約中。
そしてお互いに想い合い、結婚を楽しみにしていた。
だがそんなパルティアが、帝国で弾圧されるジニアの民でもあることは
彼女たちとごく少数の人間だけが知る秘密だ。
けれどハルバートの母違いの兄ガイエン大公は、策をめぐらせ
パルティアに揺さぶりをかけ……。
緊張感の募る巻でした。
パルティアの失われた記憶が戻り、王への怒りは募り
その息子であるハルバートとの関係にも、大きな亀裂を与えます。
そしてパルティアの記憶をよみがえらせたガイエン大公が次々しかけてくる罠。
今回のお話は、めちゃくちゃシリアスでした。
パルティアとハルバートのラブラブも、基本シリアスで
重苦しい感じ。
でもシリーズとしては重要な転期の巻でした。