巨怪伝〈上〉―正力松太郎と影武者たちの一世紀 (文春文庫)
とにかく恐ろしく巨大な正力松太郎の生涯を余す所無く描いた本です。
つきることない欲望とそれを実現していくバイタリティ、人を人とも思わない冷酷さ、などなど、読売の繁栄をつくりあげた男の全体像が克明に伝わってきます。また、メディアの興亡(攻防?)史の面もあり、読売だけでなく、毎日、朝日も結構えげつないことをしてきたことも知ることができました(関東大震災で東京の新聞社が壊滅状態になったのをいいことに、朝日、毎日は関西から販路拡張を仕掛けてきた)。
思いつくままに、この本から得られた情報をあげると、
○ 2004年にイチローが破るまで大リーグの年間最多安打記録を持っていた往年の名選手シスラーの息子は、終戦直後日本にいて、日本の野球復興にかかわった。
○ 川上時代のジャイアンツは優勝するたびに読売本社内を隈なく優勝旗をもって練り歩かされ、その時、監督選手を冷ややかな目で見ていたのは、誰あろう、あのナベツネであった。
巨怪伝〈下〉―正力松太郎と影武者たちの一世紀 (文春文庫)
全ての始まりはここに書かれている。
そして全ての始まりはここである。
現在の原子力廃止が進まない理由もわかる。
原発の元凶が何処にあるか、この本を読むことで把握できる。
東電を攻撃しても無駄な理由が良くわかる。
原発・正力・CIA―機密文書で読む昭和裏面史 (新潮新書)
以前、佐野真一の正力伝「巨怪伝」を読み、正力という人物の権力欲、妄執ぶりに唖然としたが、CIA機密解除文書から構成された本書を読み、世界一の謀略機関と恐れられるCIAすら己の権力のために利用しようという常人離れした思考に、改めて化け物ぶりを感じた。
日本国内の反米世論が強く、共産化の可能性すら現実味を持って語られていた1950年代、正力はアメリカの危機感を見透かしたかのようにCIAに近づく。一方、反共主義者正力は戦後、日本テレビを全国で放送するため、「原発の父・正力」を旗印に総理を目指す。両者は、読売新聞5000人記者の集めた情報をCIAに横流しし、同紙を反共宣伝機関にすることを認める代わりに、正力に原子力技術を提供するという悪魔のような契約だ。「ポダム」なるコードネームを付けられ「CIAの資産として育てる」とノートされた正力だが、「原子炉をくれ」「テレビをくれ」とねだりまくって言いなりにならず、CIAをあきれさせる。とにかく総理になりたい正力の尽力で原発の法整備、基礎技術導入はなされた。皮肉なことに正力の夢・総理就任はかなわず、正力の夢の道具でしかなかった原発はいまや国内発電量40%と、国の根幹をなす。
同月発売された野田敬生「心理諜報戦」では、ソ連KGBが読売を含む国内すべての全国紙に協力者を抱えていたことを明らかにしているので、同社は冷戦時、米ソ両方から便宜を受けていたことになる。著者は外国の情報機関がメディアを利用した心理工作をすることに驚くなど、平和ボケだ、と語る。公平中立をことあるごとにいう日本の新聞、今でも工作されてるんじゃないか、と疑いたくなった。