あやかしがたり (ガガガ文庫 わ 3-1)
惜しい、の一言に尽きます。
時代物、妖怪物の雰囲気を持ちながら、実際はそことは違う部分に意図を置かれている作品だと思います。
読み手によって非常に評価が分かれてしまうのではないでしょうか。
時代物好きからすると時代考証が今一つしっかりしておらず具体描写に欠けます。会話表現でも首をひねる向きがあるやもしれません。
一方で時代物に触れた経験が少ない若年層にとっては、敷居が低くつっかかることなく読めるはずです。
特に時代物特有の言い回し、語句というのが目立たないあたり、作者個人の筆力で雰囲気が出せています。
良質な時代物を読んできた身としては判断に迷う部分でもありますが・・・。
また、妖怪についても既存の妖怪像からやや外した部分に設定を作っているあたりも悩ましい。
とはいえ、定義から練りこんだものなので違和感はありません。よりカジュアルで少年漫画的な妖怪になっています。
そうした部分を気にしなければ、物語の根底に流れるテーマ性が見え、感情移入もできると思います。
読むにつけ、アウトサイダーへの鎮魂歌という側面が見えてきて、純粋なエンタテイメント作品として成立していることがわかります。
何よりそれを支える作者の筆力に驚かされました。これで21歳?とは。
剣劇の部分やうなぎのくだり、たぬきのくだりなどは緩急のつけ方が上手です。
伏線も気持ちよく回収されます。反面、地の文が走りすぎかなとは思いますが。
加えて、作者のブログやツイッターとの落差にも驚かされました。そこに惹かれて読んだら、読み込んでしまいました。
ブログやツイッターの調子が愉快なのでコメディ調のものかと最初思いました。
ひとえに、言葉を選ぶセンスが備わっているのかと思います。
あとは、イラストでしょうか。商業的には損をしていると思います。
せめて電撃の某時代劇くらい、とっつきやすいものだったらと思ってしまいます。
ここも惜しい。
いろいろ含めて一昔前の少年漫画が好きな方は読んで損のない作品だと思います。
年齢とイラストの残念さを考慮して、★4
トガリ③ (MFコミックス フラッパーシリーズ)
トガリ新装版3巻です、旧版の単行本の5巻の表紙イラストが収録されています、自分だけの世界の帝王といった攻撃的なオーラを放つ秀逸なイラストです。
この巻は、旧版の単行本の5巻・6巻の話が丸々収録されています、exのWISHを撃破したところまでの収録となります。
咎を操る罪人たちとの戦いが本格的になり、アクション性の向上に拍車がかかっています。
今回の書き下ろしは沢崎が新米だった頃に初めていつきと会った一場面です、本編ではなかなか見ることのできない心温まる和やかなエピソードです。
恒例の夏目先生の作品解説もじっくり読みましょう。
トガリ (1) (少年サンデーコミックス)
週刊少年サンデーで連載されていた、この旧版の「トガリ」も遂に復刊を遂げました、長年この作品が埋もれていたことが悔やまれます。
旧版の1巻と2巻の分が丸々収録されています、咎狩白とは相反して恐々とした黒の装丁になっています。
帯で皆川亮二先生も語られるように、夏目先生は皆川先生の元スタッフですが、ただの一スタッフではありません、圧倒的な画力と際立つ黒さを秘めた漫画を描く才能を有する貴重な作家です。
300年前に極悪非道の限りを尽くし、処刑され地獄に墜ちるも、300年間拷問され続けても全く改心することのなかった統兵衛は、地獄の長エマより唯一の道具、咎狩(トガリ)を渡され、108日以内に108の罪を狩ることによって地獄から解放されること約束される。
咎狩のみを手にし、統兵衛は108日間の期限のもと再び現世に降り立ち、そして狩りの日々が始まる、正義のためでも誰のためでもなく、全ては己のためだけに・・・
旧版の1巻の表紙イラストもカラーで収録されています、骨太な力作だったために嬉しい限りです。
それと、旧版の1巻にあったラフデザインなどは収録されていませんが、今回のには描き下ろしの統兵衛が地獄に墜ちる前の話が載っています、4ページだけですが興味深いです。
また、咎狩白と同様に各話ごとの制作秘話なども掲載されていますので、色々と満足な仕上がりとなっています。
咎狩 白 3 (MFコミックス フラッパーシリーズ)
素晴らしい。それしかいいようがないです。闇の中にまたたくかよわい光、それが命。この作者は生と死、そして光と闇に真正面から向き合って、ついに描ききったと思います。画力も圧倒的に向上し、迫力ある絵を存分に堪能することができました。中断していた年月は、作者を成長させるためには必要だったのかもしれません。中断したことがかえってよかったとすら思います。とにかく、完結させてくださってありがとう、としか言いようがありません。中途半端な結末にはならないと思いましたが、こんなに感動的に終わるとは思いませんでした。本当にありがとう!
先生、これからもがんばって!読者はみんな応援してますよ!!
咎狩白 1 (MFコミックス フラッパーシリーズ)
トガリとはかつて週刊少年サンデーに連載され、高い画力と圧倒的な躍動感を併せ持ち絶大な支持を受けていたが、2002年に入ってすぐに打ち切られた不遇な漫画です、あともう少しで完結というところで終了しまるでジャンプのごとく「本当の闘いはこれからだ」といった具合な未完の作品でもありました。
それからおよそ7年半後に突然メディアファクトリーのコミックフラッパーで復活、そして遂にその単行本が発売されました。
サンデーでの連載、単行本を読んだ者ならば待ちに待った最高の作品だということはいうまでもありませんね。星5つで当然ですよ。
それも、連載再開に当たって一から設定を説明し直すといった、まだるっこしいことは一切せずに、残り1日といきなりクライマックスで手っ取り早くていいかんじです。
でも、この作品雑誌のカラーに全くあっていないのですが、大丈夫なのでしょうか?
なんにせよ、連載を許してくれた編集部と、連載を始めてくれた先生には大感謝です。