あやかし通信『怪』 (ハルキ・ホラー文庫)
著者が伝聞or体験した実録怪談集。著者の解説によれば、長らく伝説の本となっていたが、今回加筆・改稿を経て文庫で再版されたという。内容は妖怪、幽霊譚など多彩な話で飽きさせないつくり。私は「こうたろう」の話が好きですね。どこか牧歌的なのにゾクゾクして。
怖い本が爆発的に発行されている現在となっては類話が氾濫しているために読者が麻痺してしまい、本書が超ド級の怖い本とはいいがたい。けれど、重みのある語り口は読むものの恐怖を駆り立ててくれます。某怖い話シリーズの編者は著者の知人らしいですが、収録話の重複についてあとがきに意味深なことが書いてあり、そっちのなりゆきもドキドキ。怖がりさんのために、お札もプリントされていますよ。
ゾアハンター (GA文庫 お 2-6)
久々に、一気に読ませる本でした. ストーリーのテンポがとてもよい. まだまだ謎、というか、主人公の過去など浅いが、これは、この続刊にて明らかにされていくのでしょう. とにかく、楽しめる一冊でした.
法石姫-クロイハナトナクシタナマエ- (GA文庫)
全体的には非常に読みやすい文章だった。また的確な描写力も光る。
SFやファンタジー小説の場合、日常的には存在しないもの、モンスターや兵器が登場する。作家はそれを文章だけで読者に伝えなければならないのだが、ラノベの場合、残念ながらそれが的確に出来ている作者は少ないと思う。大抵は、ちょっと考えなければ理解できなかったり、そもそも伝える気が無いと思われるような描写も多い。
しかしこの小説には、そういう所がほとんどない。未知なものを描いているにもかかわらず、その形や雰囲気がすんなり伝わってくる。これは作者の力量が優れている事を示していると思う。
だが、いかんせん古い。キャラクター設定や敵の設定、話の進め方、等々。どこかで見たと言うよりも、この手のストーリーをよく見る者としては、最大公約数の集まりというか、定番の集合体の様な印象を受けてしまうのだ。
王道と言えば聞こえはいい。しかしたとえて言うのなら、王道は人間、キャラクターや設定は服だと思う。服を変えればとりあえずの印象は変わる。だが中身は変わらないので安心できる。よって王道そのものを否定するわけではないし、むしろ一つのジャンルとして好感を持っている。しかしこの小説の場合、着ている服自体も古いのだ。
すべてが既成の品と変わらないので、ストーリーの先も見えてしまう。冒頭で繰り広げられるシーンは、実際は後の方で描かれるものなのだが、ある程度、SFやファンタジーを見ている者なら、出オチに近い感覚を持ってしまうのではないだろうか。冒頭にこのシーンがなければ、王道といえども、ラストにある程度の感動はあったと思う。
偶然かもしれないが、最近呼んだラノベの幾つかには、こういう手法、後の方に出てくるストーリーの一部を冒頭で少し披露する、といったものが使われていた。読者の興味を喚起する意味で有効なのかもしれないが、使用法を間違えると興ざめになるので一概に良いとは言いかねる。
またヒーローものとしては、いささか進行が遅い気がする。たとえば昔のヒーローものでは、三十分番組の場合、最後の五分くらいになって、ようやく変身し、敵を倒すというのが定番だったと思う。この小説をそれにあてはめると、一時間番組の最後の七〜八分に、ようやっと主人公がカッコよく活躍するという感じだ。
もっとも、言い方を変えれば、それでも最後まで楽しんで読めたのだから、やはり文章力が優れているという事になるのだろう。それだけに本当に全体的な古さは残念だ。設定やストーリーの流れに、どこか一つでも独特のものがあれば、☆4つになったのだが。