煙か土か食い物 (講談社文庫)
疾走独白ミステリィ。一言で言えばそんな感じ。確かに今までこんなスピード感のある小説は読んだことがなかった。もっと早く読めば良かった。そして物語の進行と同時に一人の男がありのままの自分をさらけ出していった。…それは裏を返せば、失踪毒吐くミスリード。ひとつ間違えば読者を置いてきぼりにしかねない勢いで、えげつないくらいに人間の内面を畳み掛けていることにもなる。でもそこでギリギリ裏返らない絶妙のバランス感覚がこの本には備わっている。と、思う。
途中で笑いがとまらなかったし、最後まで読むのを停められなかった。そしてこの物語の主人公であるところの奈津川四郎は最初っから考えるのをやめられなかった。微睡みの中でさえ。パターンを考え暗号を考えトリックを考える。犯人について、自分について、セックスについて、兄弟について──その先にある家族について。そうやってたどり着いたところには何があったのか。そこで得たものは果たして真実正しいのか。それは読んでのお楽しみ…。
世界は密室でできている。 (講談社文庫)
いやあ、初めて舞城作品で涙しましたよアタシ!!
ミステリーのからくりなんかどーでもいい。
「へーーーすっごいね、ルンババ」程度で良し。
何がミソかって、↓で誰かが書いてるけどラストですよ。
彼の作品には、総じて「オカシナ・キ○ガイナ」人が出てきて、
日常をひっかきまわすってゆう流れがあるんだけど、
そのまんまB級映画みたいな仕上がりでは今回おわっとりゃせん。
この本では、登場人物が抱える浄化できずにいた過去の苦しみを、きちんと成仏させています。
そこが泣かせます。
ディスコ探偵水曜日〈上〉 (新潮文庫)
一応の表向きはミステリー小説の体を成し、本当に多くのトリック
やドンデン返しが散りばめられていますが、(特に上巻は清涼院流水氏『コズミック』を彷彿させるような不条理トリックのオンパレード!)この本筋は主人公 ディスコ・ウェンズデイ(≒舞城王太郎?)
の文字通り「強い意思」によって駆動されてゆく、ハードボイルド小説として読んでいくことができました。
小説全体の完成度はさておき、末広がりに拡大されてゆく小説内世界を維持し、展開してゆく力量と胆力には感服。枚数に比例する迫力がありました。すごい!
特に物語の終盤は、中盤に広げた大風呂敷が、さらに接いで巨大化してゆくので、
「おいおい、大丈夫かよ。舞城!」と突っ込みたくなるような展開でした。
ただ、一応それなりに収束はしていきますが、首をかしげる所も多々あり。
私の努力が足りなかったのでしょうが、この物語世界を完璧に把握できた(もしくはしようとする)読者が果たしてどれだけいるものか・・・。(私にはこの世界の詳細な理解がこの小説の本筋ではない、と思いましたので気にせず読み進めました。)
テクニカルな部分は抜きに、その底流に流れる舞城っぽさというか、恥ずかしげもなく晒される青臭い倫理観(否定的な意味でなく)は、『阿修羅ガール』『世界は密室でできている』『みんな元気。』『好き好き大好き超愛してる』から一貫して見られる従来の舞上節が全快です。
その部分を多少なりとも期待されている方には買いかな、と思います。
特に終盤へと加速してゆくところは、『阿修羅ガール』の後半部分と近似しており、舞城思想の水先案内人(?)桜月淡雪も登場。舞城の小説って・・こう、なんだか毎回作家自身に萌えてしまいます。
ディスコ探偵水曜日〈下〉 (新潮文庫)
上中下巻と、長い長いこの物語をやっと読み終えた。初めて読む舞城王太郎の作品ということもあって、結構ついていけない所もあったし、理解がおぼつかないところもあったけど、ものすごく楽しめた一冊だった。
本格ミステリっぽい体裁だったり、時空SFのような舞台設定だったりと、読むのが大変だったけど、結局、この小説は、パロディっぽい装いをしながら、本当はハードボイルドミステリなんだと思いながら、最後のこの巻を読み進めていった。
子どもの誘拐、虐待、ギャングの抗争、届かない昔の女への思い...なんて、まさにレイモンド・チャンドラーのフィリップ・マーロウ・シリーズから続く典型的なハードボイルドミステリの話じゃないか。20年前、読みふけっていたことを思い出してしまった。幼児虐待モノって言ったら、アンドリュー・ヴァックスのバーク・シリーズかな?ディスコ・ウェンズディが彼らの直系子孫に思えた。
こんな読み方したら、舞城王太郎ファンには怒られるかもしれないけど、ハードボイルドものとしてもとっても面白かった。
ディスコは卑しい世界を歩く高潔な探偵だ。
舞台『NECK ネック』 [DVD]
ナックスのリーダー目当てで二月に円形劇場で見た時から、DVDをとても楽しみにしていました。
殆どの登場人物が首から上しか出演せず、動きの無い舞台です。
必然登場人物たちの会話でストーリーが進むことになるのですが、話の性格上、叫んだり怒鳴ったりする台詞も多く、聞き取りにくいところもあるかと。
ただ、それ以外は私はとても楽しめましたし、河原さんの独特の台詞回しや、森崎リーダーの色々な意味で哀れな役所、鈴木さんのキレた演技、溝端君の後輩気質なキャラ設定は必見だと思います。
舞台を見るまで、溝端君って何となく苦手に感じていたんですが、実際に見てみるとメイクはしているんでしょうが肌は綺麗だし整った顔をしてるんですよね。
星を一つ減らした理由は、特典映像の稽古風景に、リーダーがいなかったこと。
ちゃんと「森崎さんはお休みでした」と出ているんですが、どうせならみんなが揃った時に収録してほしかったな、と。