椿三十郎 [Blu-ray]
黒澤作品の中でどれか一作だけを選ぶとなると、僕は随分迷った末に『椿三十郎』をあげることにしています。
この頃の三船敏郎さんの格好良さと存在感は群を抜いていて、それはこの映画においてもそうです。特に居合抜きのような殺陣シーンは壮絶で必見です。
しかし、この映画の魅力は孤高のヒーローとしての椿三十郎(三船敏郎)の格好良さにあるのではなく、全篇を通して漂う何とも言えないほんわかとした、優雅でおかし味のある雰囲気にあります。
三十郎もついそれに巻き込まれていき、「なんだか調子が狂っちまうぜ」と苦笑いしているような空気が漂ってくるのが、上質な喜劇を観ているようで楽しいです。
何度観ても飽きのこないエンターテーメント映画の代表のような作品ですね。
赤ひげ ディレクターズカット 完全版 [VHS]
この作品で、鈴木杏という女優を知っただけでも、よかった。
こんなにすごい演技を、この若い女優にされては、ほかの俳優や女優が下手に見えてしまう。
泣く演技の迫力も、ただ見つめるだけの目の表情も、比べられる相手がいなかった。
内容は、そこそこきれいにまとまって楽しめますが、それ以上は突き抜けない。
貧しさを主題にしているようですが、どうも、中途半端なかんじがするのは、どうしてなのか…たぶん、貧しそうに見えないからです。鈴木杏だけは、ほんとうに貧乏そうに見えて、見ていると無言になってしまうのですが。
バイバイ、ブラックバード
ファンでもなんでもなくて、伊坂さんはこれで3冊目です。
この作家さんが人気あるのもわかるな、とあらためて思わせてくれる一冊でした。
文章は読点が多すぎてあまり上手とは言えず、連作短編になっていますが、どの話もそれほど驚きはなく、まあ、凡人でも思いつける範囲内なのですが、読み進めるうちに、だんだんとこの世界観が気に入ってきている自分がいます。
どこかいいかげんで、軟弱で、でも、徹底して人に優しい主人公と、マツコ・デラックスさんがさらに凶暴になったような大女、二人の会話も、それほど大きな笑いに繋がらないのですが、最初のうちは、ふーんという程度なのに、最後のほうでは、なんかいいなって気になってしまいます。要するに、二人のことがいつのまにか気に入ってしまっているんですね。そういうふうにさせてくれる作家こそが、次にまた読みたくなる作家さんなんだと思います、はい。
海は見ていた [VHS]
深川の遊郭を舞台にした話です。清水美砂、久しぶりに見たけれど、とても格好いいあねさんでした。気が強いつみきみほ、優しい遠野凪子とそれぞれが個性のある役で、かけあいも面白かったです。あねさんたちが着る衣装も個性的。皆が何かをしょっていて、それなりに苦労も悩みも恋もある。その中で生きていくということの力強さを感じました。お話はわりにたんたんとしている印象ですが、それぞれの人物の気持ちが出ていて心に残る話でした。
SABU~さぶ~ [DVD]
三池崇史監督作品は結構見ているほうなのですが、あの強烈な趣味は、熱狂的三池ファンにはたまらないカタルシスでも、一般人にはなんともアクが強すぎて、“オーディション”以外の作品にはなかなかついて行けないと言うのが本音です。 その三池監督が山本周五郎原作の“さぶ”をやる、と聞いたときは、正直びっくりしたものでした。
見てみるとなかなかの秀作ですね。名古屋テレビ開局40周年を記念して作られたそうですが、テレビ的なセカセカした演出でなく、ゆったりした堂々の映画的演出には風格があると思いました。 英次が人間的に成長していく部分が少し描写が荒くて、どういう風に彼が立ち直ったのか内面の動きがはっきり見えなかったり、石川島の役人たちがなぜ英次に魅かれて行ったのかも描写が足りないと思いますが、ラストのさぶと英次の抱擁、おのぶのナレーション、さぶとおのぶが橋の上ですれ違う絶妙のショットなど、人生の喜び、悲哀を見事に凝縮した場面になっていると思います。 音楽もグッド。 藤岡竜也をはじめとする若手演技陣も、変にカッコつけないで熱演しているところがいいし、ベテラン演技陣も脇をガッチリ固めている、という印象が強く、これは見ごたえのある作品でした。