泣ける太宰 笑える太宰 (オフサイド・ブックス)
「泣ける太宰 笑える太宰」。でも、目次にあるとおり、〈毒づく太宰〉、〈祈る太宰〉というテーマのもとにも、作品は集められ編まれている。
セレクトされた作品の末尾に〈案内〉として、控え目な紹介文が添えられていたり、作品の合間合間に〈名文選〉として、印象的な作品の一節が紹介されていたり(これにも一言紹介文が付されてある)、〈太宰三景〉として、太宰ゆかりの名所や今扱われている土産物などが写真と文とで紹介されていたり、読んであきない構成がなされてある。
個人的には、〈笑える太宰〉というテーマに収められた「畜犬談」、〈祈る太宰〉というテーマのもとに収められた「竹青」が好きだ。
「畜犬談」。極度の嫌悪の情を抱いていた筈の飼い犬、でも、最後には、愛情を抱いてしまう。芥川龍之介「蜜柑」をほうふつさせる筋だ。
「竹青」。主人公魚容の認識が、心が、彼の身に起こった不思議な体験を通して、変わる。時を同じくして、魚容の妻は姿も心も変貌を遂げる。〈再生〉を〈祈る太宰〉の姿が、そこにはある。
こうして書いてみたら、マイナスの札を集めて、プラスに転じたい、――編者の言葉を借りれば、「〈苦手感〉を笑いに転じた」い――というのが太宰の祈りだったのだろうな、と改めて感じた。
表紙デザインがかっこよく、ヴァイオリンよりケエスが大事な自分は、どうかすると、どこにでも持ち歩きたくなる衝動にかられるが、……それは、やめておこう。