The Equatorial Stars
何も要らない。雑味などまったくない。ドビュッシーの世界のような浮遊感にMusicForAirportの様に無機的でいて刺激的。不思議な世界に迷い込みどっぷりと身を浸して欲しい。純粋でいて余計な物もなくジョンレノンのイマジンの世界を音で表現したかのような無境界さである。理屈など通用しない。もう二人の翁は確実に何処かに行っている。
THE DROP [ボーナストラック2曲収録・トランスペアレンシー封入・解説付・国内盤] (BRC104)
僕は97年フォーライフ盤(FLCP-1005)で本作品を聴きました。こちらは日本用ボーナストラックが3曲で「Swat & Rut」という曲が入ってる2枚組です。解説によるとボーナストラック3曲は本作品のために録音されたものの収録時間の都合でボツになった曲だそうですが、個人的にはこの「Swat & Rut」という曲は余り好きじゃないので、余程のイーノ・マニア以外は聞かなくてもいいんじゃないかと思います(笑)。
全体的な音の方はというと、本作品制作時より数年前の例で恐縮ですが、YMO「テクノドン」や立花ハジメ「BAMBI」に近い聴き応えの曲が多いんですよね。だからこの辺の作品が好きな人は本盤もアリだろうし、ダメな人は他のイーノ作品と比べると「あれ?」という印象を持つでしょう。少なくとも他のアンビエント作品の静逸さは薄い作品で、チープなシンセがプリプリ鳴ってる小品が沢山入ってます。
この頃を振り返ると、クラブ・ミュージックの進化がまだ一応続いていて、彼らのようなオリジネイター達の音もハウスの進化過程と関連して文脈化されていた時期です。ところが、実際彼ら自身は「ハウスの空爆に耐えて」(by立花ハジメ)音を作っていたような側面が強くて、共通して「踊るための音楽」から距離を取った作品を発表していました。本作品はイーノがわざわざ日本のマイナー・レーベル(フォーライフ)と契約して発表した作品ですが、同じ時期に色んな仕事を他レーベルでやりながら、こういうベクトルの音を日本のレーベルから出していたということ自体、何か彼の中で必然的なものがあったのではないかと僕は夢想してます。
ロバート・フリップ―キング・クリムゾンからギター・クラフトまで (宝島COLLECTION)
カリフォルニア大学バークレー校に在籍していた著者が音楽論の博士号論文を書くために、ロバート・フリップについて研究していた内容を後に書籍にまとめたものです。このレビューを読んでいる方は、もちろんロバート・フリップがキング・クリムゾンのギタリストであることは知っていると思います。著者が書籍の前書きではっきりと「これはフリップの伝記ではなくて、アートについて書いたもの」と言っているとおり伝記ではありません。フリップの音楽活動について、作品を追いながら12章に分けて、60年代・70年代(かなり詳しい)、80年代(この時代はさらっと)、ギタークラフト(体験記)、そして90年代のフリップ&イーノ、フリップ&シルビアンの直前までをまとめています。クリムゾンの音楽を一通り聴いてしまった方、2008年のシカゴでのライブ音源以降まったく新しい音が聴けなくていらいらしている方、人生の中でクリムゾンの音楽が一番好きな方、マニア必携の書籍です。このアマゾンで買ってくださいね。
さて内容は、各アルバムの楽曲をメンバー・使用楽器から、リズム・音色・構成、そしてかなり私的な評論まで、ストップウォッチを持ちながら聴いて、分析したものが前半。後半は、著者がギター・クラフトに参加した時のフリップ先生の教えなどがまとめられています。ともかくマニアックで、文字も小さくて約280ページあって、読み応え十分。読んでから音楽を聞き返したり、また音楽を聴いてから読んだりと、何度も楽しめます。
ちなみに、キング・クリムゾンのバンド史だったらクリムゾン・キングの宮殿―風に語りて(シド・スミス著)が一番だと思います。これも、もう何度読んだか分かりません。クリムゾン周辺の音楽を探して聴きたい方には「ストレンジ・デイズ Artist&Disc File Series No.3 キング・クリムゾン」(ストレンジ・デイズ発行)がいいです。時代ごとのクリムゾンの全作品の解説、主要メンバーをインタビュー、そしてメンバーや関連ミュージシャンの作品が簡潔にまとめられていて、辞典的に重宝します。この2冊はお勧めです。そのほかの書籍としては、「キング・クリムゾン 至高の音宇宙を求めて」(北村昌士 著)、「地球音楽ライブラリー キング・クリムゾン」(TOKYO FM出版)などがあります。
それにしても2011年になって、もう新譜は出ないかなあ。寂しいです。