水の柩
忘れることは、乗り越えるといこと……作中には、時折人生について深く考えさせる表現が出てきます。今回は著者の得意とする二転三転の展開はありませんでしたが、「人間が人間である以上、誰しもが他人や自分、そして家族にさえも嘘をついて生きている。またはそうしなければ生きていけないのかもしれない」という深いテーマの元で書かれた素晴らしい作品だと私は思いました。少年の成長物語ですが、大人の私が読んでも、主人公の前進していこうという勇気には感動します。 絶望から希望へ……少しずつ光に向かっていく哀しくも美しい物語に、心揺さぶられる事は違いありません。
月と蟹(韓国本)
あなたは10歳の頃何を考えてましたか、と聞かれてすらすらと答えられる人はなかなかいない。断片的に覚えているとしても、今度はそれが12歳なのか8歳の記憶なのかの区別がつかない。道尾さんは少年の心を覚えているのか、世の中が微妙にわかり始めて、でもまだ子供らしい残酷さを残す年頃の心のひだを、繊細に描き出していく。
そんな筆者にほだされて、たぶん多くの人が慎一に感情移入しながら読み進めるのだろう。慎一を思えば切ない。父を亡くした悲しみが癒えてないだけでも切ないのに、母は恋人をつくり、親友は虐待され、気になる娘は友達に笑いかける。やがて孤独な心は暴走を始め、ここに至って道尾さん得意のサスペンスが展開される。筆者は恐怖を操り、最終盤に慎一が恐怖に耐えられなくなるまで続く。
道尾さんが珍しく文学してると思ったら意外なところから恐怖が飛んでくる。それに耐えられなければ後味の悪さが残るのだろうが、私は恐怖を操る道尾さんの技術を秀逸と思った。
花と流れ星 (幻冬舎文庫)
真備シリーズの短編集です。
えっと、大ファンなのですが、
真備シリーズ2冊を読んでいない。
なんちゅう不届き者なのでしょうか。
ゴメンナサイ。
常々、道尾秀介は、
「人間の真相心理を書くにはミステリー技法が一番」
と言っています。
それを如実にあらわしたのがこの作品集だと思います。
どれも、打ち明けられない過去があって、
その過去が悲惨な事件を起こしたり、起こそうとしたりする。
辛い物語の連続でした。
まさに道尾ワールドでした。
一つ目の「流れ星の作り方」は眠れなくなる夢十夜 (新潮文庫)で読んでいたのですが、
再読してもやはり面白かった。
「モルグ街の奇術」のトリックはニヤリとしました。
いやぁそれぐらい俺でもわかるよ〜。
って想って読んでいて、その通りになって、
ほらね。
と得意げに想っていると、
最後にやられました。。。
二歩も三歩も先をいく展開に脱帽です。
「オディ&デコ」の事件日の使い方、さすがですね〜。
気づかないっすよ。
普通にああ、そういう季節の話なんだなと想っただけだもん。
それが事件の解くカギになるとか想わないっしょ。
「箱の中の隼」の伏線の回収はさすがです。
コーヒーの伏線とか唸りましたよ。
冒頭で???が頭に浮かび、なんだこれ?と感じていて、
読んでいるうちにそれを忘れていたのですが、
最後におおおおおおおおって感心しました。
最後の「花と氷」はヒューマン性が強く感じられました。
おじいちゃんの気持ちが人間くささが伝わってきました。
トリックも結婚式のブーケプルズとかかっているし、最高でした。
一番好きかも。
豆のにしかわのコーシーのみたくなりました。