木橋 (河出文庫)
裁判員制度導入にあたり、有名な「永山基準」の元になった筆者の作品を、ぜひ読んでおきたかった。 一気に読みきった。印象に残ったのは筆者の幼少期の痛いほどの魂と腹と知識の「飢え」だった。また無知と暴力に満ちた家庭に育った筆者が、弱冠19歳で4人もの尊い生命をライフルで奪い獄中に入って後、初めて貪るように本を読み学んだであろう文章力の確かさと、長年目にしなかったはずの風景スケッチの緻密さとにも驚嘆した。罪を犯す前に、何とかならなかったものか、してやれる事はなかったものか、と繰り返し呟かずにいられない。 筆者の死刑判決・執行は、私はその判決文も読んだが、惨めな生育歴を考慮しても、罪の重さを考えれば、納得に値すると思った。しかし裁判員制度が始まる前に、この本を読んでおいてよかったと思う。読まずに裁く立場になり、人を裁いたら、多分私は生涯後悔しただろう。最初は反抗していたが、死刑決定後、学ぶことに救いを見い出し、獄中で穏やかに執筆を続け、しかし執行時には再び暴れたという、破滅的な筆者の人生。彼は「心のアバシリ」に、死刑という形を取ってでも、どうしても帰らずに、いられなかったのだろうか。
MIDNIGHT + 1
ミュージック・マガジンのベストアルバムに入っていたので購入し、田中貴(サニーデイ・サービス)の解説を読んで新宿のコンピなんだと知った。本当に様々なジャンルの人が集まって音楽というおもちゃで遊んでいる感じが、新宿の街の混沌さとシンクロしてくる。大沢在昌/内藤陳/柄本明/高浪慶太郎/ギャランティーク和恵/堀込高樹/坪内和夫/西浦謙助/新宿金蝿/パーマネンツ/Pi-Ko/渚ようこ/ソワレ/石坂まさを/デリシャスウィートス/永山則夫...。ロック/ポップス/シャンソン/歌謡曲/ニューミュージック...。小説家/文筆業/コメディアン/歌手/ミュージシャン...。選者のセンスと参加ミュージシャンのコラボに良心を感じる秀作。
無知の涙 (河出文庫―BUNGEI Collection)
勾留されて初めてまとまった時間を読書に費やし、その結果次々と頭に入って来る知識を消化できていないように感じました。「資本論」や雑多な哲学書などを読破した結果覚えた難解な言葉がやたらにノートに出てくるのですが、難しい言葉を使っている自分に酔っているよような文章です。ただし、それは裏返すと、小学生の頃から学校を休みがちで勉強らしい勉強をしてこなかったそれまでの人生の中で、初めて「知」に触れた喜びや学ぶことの楽しさの感情表現の一形態であることが本を読み進めていくにつれてよくわかります。
まなざしの地獄
見田宗助によるモノグラフの古典です。
社会学的な業績はさておき、単純な読み物としても十分に面白いです。
対象とする領域を絞り込むことで、あえて社会にあるリアリティを浮き彫りにする手法
一般化されえないその場限りのミクロな現象から、社会を読み解く手法
その社会に生きる人の人生を描くことで、逆に社会一般を描写するモノグラフです。
裸の十九才 [DVD]
なぜか、アランドロンの「太陽がいっぱい」やアランレネの「死刑台のエレベータ」を思い出しました。なぜでしょうか。。危なげな雰囲気でしょうか?冷たくシャープな映像でしょうか?若い2枚目が嘘を重ね犯罪に染まるからでしょうか?明るさと暗さを兼ね備えた主人公の性格、危なげなカッコよさを持つ原田大二郎の魅力でしょうか?スピード感と言うかメリハリのある編集もなんとも言えない魅力です。
コツコツという乾いた革靴で歩く音、フランス映画を思わせるフィルムノワール。脚本も演出も音楽もシャープで、しかも巷にあふれる表面的なスタイリッシュではない。日本の文化や風土に根付いた、最も土台のしっかりしたスタイリッシュな日本映画ではないでしょうか。ヌーベルバーグファンなら絶対見るべきですし、すべてが完成された密度の高い傑作です。最高!