源氏物語九つの変奏 (新潮文庫)
九名の錚々たる作家が、それぞれの解釈で描いた九つの物語のアンソロジーです。
その中には、現代語訳しただけに近いものや、視点を変えたもの、時代も場所も全く変えてしまってそのエキスだけを残したものなど様々です。
それぞれの作家の描く物語は、「源氏物語」をより解りやすく深くしてくれるように思います。
今回、この九編の短編を読んで、一番感じるのは、「源氏物語」の「深さ」です。
これだけいろいろな解釈がなされ、そのテーマを時代を変えても作品にしたくなる魅力があるのでしょう。
更に、「源氏物語」の各巻が、それぞれ単独の短編小説になりうるということを再認識しました。
所収されている作品の中で、最も気に入ったのは、江國香織の「夕顔」です。一見、単純な現代語訳のように見えて、意外な夕顔像を見せてくれました。
その他にも小池昌代の「浮舟」も、視点を変えるとこんな魅力的な小説になるのかと、面白く読むことが出来ました。
どの作品も魅力に溢れた作品ばかりで、外れはありません。
読み応えのある一冊でした。
短篇集
季刊の文芸誌、「モンキー・ビジネス」に掲載された作品を中心に、柴田元幸氏が編んだ短篇集。収録された作品もさることながら、クラフトエヴィング商會の美しい装丁で、所有することがうれしくなる本だった。
収録作品は次のとおり。
・クラフトエヴィング商會 「誰もが何か隠しごとを持っている、私と私の猿以外は」
・戌井昭人 「植木鉢」
・栗田有起 「「ぱこ」」
・石川美南 「物語集」
・Comes in Box 「朝の記憶」
・小池昌代 「箱」
・円城塔 「祖母の記憶」
・柴崎友香 「海沿いの道」
・小川洋子 「『物理の館物語』」
このうち、戌井昭人とComes in Boxの作品以外は、「モンキー・ビジネス」に掲載された作品ということなので、「モンキー・ビジネス」を創刊号以来全て読んでいる私にとっては既読の作品が多かったが、改めて、一冊の短篇集として出来上がった本は、素晴らしい出来だった。
特にお気に入りは、小川洋子の作品。『物理の館物語』という本、読んでみたい。
それにしても、残念なのは、突然の「モンキー・ビジネス」の休刊。たまたま今、その「最終刊」を読んでいるけど、非常に良質な小説を提供してくれていた。いつの日か、復活を願う。