翼 cry for the moon (集英社文庫)
村山由佳の小説には、傷を負った人たちが多い。
というか、どの作品にも大抵出てくるのではないだろうか。
この本で出てくる人物たちも、
それぞれなんらかの傷を負っている。
だからだろうか。その分素敵な人物たちが非常に多い。
人の内面を分かってくれる人物を登場させることで読者をも癒すのが
村山由佳の小説だと思う。この本は私にとってその頂点をなす一冊だった。
素敵な風景・人物の描写はやはり最高。
ストーリーは少し重いかもしれないが、一気に読みきらせてくれる一冊。
W/F ダブル・ファンタジー
村山由佳さんの作品は初めてでした。週刊文春連載中も読んでいませんでしたがつい最近ふとしたことから作品の存在を知り、主人公が自分と同世代ということで興味を惹かれて手にとりました。
感想...非常に自伝的要素の強い作品だと感じました。ここまで自伝的でいながら最後までぐいぐいと読ませる筆力はさすが。ラストの花火のシーンの美しさと哀しさの余韻もよかった。初めての作家の作品を読むときはかなり懐疑的になるのですが、この作品は引き込まれました。ただ、主人公の「奈津」は決して特殊ではないと思います。同じようなことをしているか、同じことをしたいか、共感できるかどうかに関わらず、彼女の心身が求めるものは同じ世代の女性であれば容易に理解できるものではないでしょうか。また、性的な描写に注目が集まっているようですが、そこまで特殊な世界や体験を描いているわけでもなくごく普通の一般的な30~40代の女性の性に対する姿だと思いました。
唯一気になったのは、作者は自分が特別だと思っているわけではないかもしれないけれど、なんとなくそう思っているような感が作品全体から漂っている...つまりナルシズムと自分大好きオーラが感じられること、でしょうか。あんなに優等生だった自分がこんなことしてるよっていうのに酔ってるように見えるというか。母親から受けていた縛りからの開放、というテーマもそこまで特殊で特別なものではないですよね。それと前半の舞台演出家のおじさんとのメールのやりとりにも食傷。
この辺がなければもっと極上の作品だったのに、と僭越ながら思いますが、個人的にはそれを差し引いても、心理描写の緻密さとリアルさ、性的な描写の率直さと美しさ等、女性からの視点として納得いくものであり、また、作品全体を通して根底に流れる人間の「孤独」に心を揺さぶられました。
そして、自由を選択することができた作者、主人公に(確固たる社会的基盤を持っていて小さな子供がいないからこそとれたアクションだったと言えるかも)羨望をおぼえました。
最後に、
>女性の性愛、性感というものは、こんなに豊かで底知れないものなのか。怖ろしいような、うらやましいような気がした。
と書いている男性のレビュアーがいらっしゃいましたが、「その通りです」と言いたいです(笑)その最中のシビアな批判眼についても。
ダブル・ファンタジー〈上〉 (文春文庫)
読者の評価は大きく分かれているようですが、主人公の奈津の誰かに寄りかかってしか生きられない性格に対して同性からの反発の大きさが、その理由かも知れません。
経済的にはシナリオ・ライターとして名をなし、十分に独立した女性でありながら、主人公は頼れる男性を求めています。
彼女は、「自由」を求められながら、一方で誰か庇護してくれる人を求めています。
でも、人間としては当然の事かも知れません。
「自由」になることの裏返しとして、「孤独」を彼女は感じます。
そして、彼女がそこで求めるのが庇護者です。
その弱さに反発を感じる人も多いのでしょう。
でも、その中でも、彼女は徐々に強くなって行きます。
その成長がゆっくり過ぎるので、小説を読んでいても、性描写ばかりが目に付いてしまうのかも知れません。
でも、人の成長って、そんなものではないでしょうか。
個人的には、それなりに楽しめました。
星々の舟 Voyage Through Stars (文春文庫)
この物語に登場する家族一人一人が、何かしらのコンプレックス、
悩みを抱えて生きている。
『人間』という生き物は、悩み、傷つきながら生きていくもの。
そんなことを教えられた気がした。
そして、『悩む』ことで、人間本来の負の感情を浮き彫りにさせる。
”この世界で、悩みや心の傷を持たずに生きている人なんていない。”
著者は、”とある家族”を題材にして、これらのことを時には痛く、
時には哀しく表現し、一つの作品として仕上げていると思う。
『直木賞受賞』云々に関わらず、純粋に一読の価値はある。
おいしいコーヒーのいれ方 (1) キスまでの距離 (集英社文庫)
シリーズの内容は高校から大学にあがる勝利が五つ年上の血のつながっていない従姉(←意味は読めばわかる)のかれんに恋をし、
惹かれあっていくとなっていくはなし。勝利の視点で物語は展開していき、勝利はしばしばかれんが他の男と仲よさそうにしてはやきもちを焼く。
個人的にはさほど面白い作品ではないと思う。というのは文章表現にひねりがなく、拍子抜けしてしまうほどスラスラと読み終わってしま
うからだ。内容より読みやすさ、わかりやすさを意識していると思われる。また、この作品を読んで考えさせられることや得るものがない。
読み終わったら『あ〜おもしろかった』で終わる。作品のような恋、恋人に憧れる事はあってもそれ以外の形で心に残ることはあまりない
と思う。
しかし上記で述べた通りわかりやすく読みやすい作品なので、読めば恋愛や嫉妬などの感情はひしひしと伝わってくる。これがこの作品の
いい所であり、魅力であると思う。
秀逸ないい作品を求める人には向かないが、とりあえず何か読みたいという人は読んでみてもいいと思う。