SENSE
最近の寓話調のミスチル曲と違い、このアルバムはdiscoveryの頃に似ていて、とってもらしさを感じました。ピアノうんぬんじゃなく、攻撃的で皮肉たっぷりの表現でも、結局それを全部受け入れてがんばっていくという前向きな桜井節がリバイバルしていて、これぞミスチルでしょ。言葉遊びも満載です。howlとか、歌詞カードみないと何言ってんだかわかんない歌いかたとか、でもあえてそういう歌い方とか歌詞にしてるんだろうなあ。Iももちろん最高!!擬態はちょっと説教くさい詩だけど、今までの桜井のテーマが凝縮されてるんじゃないかな。真か偽か、偽か真かわからんけど、全部ひっくるめて前向きで。他の曲も過去のミスチルの名曲を彷彿させるような、ある意味best版CDになってると思います。らしい、ってのはなんなのかわからんけど、これぞミスチルです
東京、音楽、ロックンロール
いわゆるWeb上に掲載された「日記」を再編集したものだが,その当時の心情を語る本人のイン
タビューを数多く挿入したり,音楽生活の原点の地での取材・インタビューを巻末に付加したりして
いる。
特に随所に挿入されているインタビューは,この本を単なる事実や感慨の羅列に終わらせず,志村
正彦という一人の青年が,自分の選び取った生き方の中で悪戦苦闘する「心の軌跡を描く物語」にし
てく役割を果たしている。
本人の内面の状況や作家としての悩みなどおかまいなしに,冷酷にも進行していくライブやアルバム
制作,様々なメディアからの取材,プロモーション活動。無からの創造というとてつもない重圧に常に
押しつぶされそうになりながらも,自分の選んだ「生き方としての音楽」の世界にどっぷりつかり続け
る日々が,日記とインタビューの組み合わせによって,手に取るように伝わってくる。
その時々の心の有様は時に息苦しくなるほどで,自分の生き方を追い求めていくことが「才能」とか
「努力」とか単純な言葉では表しきれないことを思い知らされる。そこには不安や苦悩を抱えながら,
何とか形になり難いものを形にしようと,あがき,のたうち回る人間の等身大の様がつづられている。
現在のような不況下,就活にあくせくする多くの青年が「将来への不安」や「自分の能力への疑念」
を感じつつ生きているのは当たり前だ。だからここにつづられていることも何も特別なことではない。
しかし志村正彦という青年の違うところは,ああだ,こうだ言い訳や独り言を言いながらも,自分選
んだ道を投げ出さず,とりあえず今のところではあるにしても「なりたかった自分」のどこかにとどま
ろうと決意し続け,また多くの代償を払い,貴重な時間を大量に費やして,夢を一つずつ現実にしてい
っているという点だ。
吉田のコンサートのときの彼のコメントにも感じたが,夢を実現した先にあるのは,その先の夢を実
現するまでの過酷な現実の日々だ。本の後半では,そういう現実に対する自己肯定感の低さと音楽を続
けていくことへの思いがない交ぜになったものが解決できないまま時間が過ぎていったことが語られて
いる。その苦悶を通した一つの答えがアルバム「クロニクル」だと考えると,本人の言った「ノンフィ
クション」の意味や「一見わかりにくい歌詞の意味」が非常によく理解できると思う。
読み終わった後,不安の中,自分の思いに誠実に生きようとする無数の若い世代の代表として思わず,
「正彦がんばれ」とエールをおくりたくなる本である。