ハンニバル・ライジング 下巻 (新潮文庫)
下巻は、第二部と第三部です。
第二部は、十八歳になり医学生となり、その優秀ぶりを遺憾なく発揮します。紫夫人を愛し愛されながら、得意の水墨画の腕でで小遣い稼ぎをしながら、一方では亡くなった妹ミーシャの敵を探して行きます。
紫夫人は、ハンニバルを闇の世界から愛の世界へ引き戻そうと務めますが、ついにはならず、故国日本へ帰ってしまいます。それは、彼が犯してゆく復讐の殺人に、諦めざるを得なかったからです。
この巻で、そうなかと改めて認識を新たにしたのは、ハンニバルが次々に殺人を犯し逮捕されながら、世論の後押しで釈放されてしまうことです。戦争犯罪人への憎しみが、それほど強かったのかと知らされました。
ハンニバルは、第三部でアメリカに旅立ちますが、「レッド・ドラゴン」との間には、更に「怪物」として成立してゆくまでの過程で、もう一作くらいは十分に書けそうです。書いてくれたら嬉しいのですが・・・。
ハンニバル・ライジング 上巻 (新潮文庫)
「書かないほうが良い」というのはトマス・ハリス自身も考えたことと思います。謎は謎のままにしておかないと、怪物でなくなってしまう。
あまり期待しないで読んだのですが、たしかにハンニバル・レクターの少年期〜青年期が描かれていて、彼が狂気に目覚める行程がある程度描かれています。
しかし本当に核の部分は相変わらず隠されたままで、読後は「結局何だったの?」という感想です。核心を知ることがなくてよかった気もするし、結局わからないならこの本の存在意義が不明だし…。単なるB級の復讐劇に終わった感は否めません。
レクター博士がどうして殺人趣味に転じたのか、ある程度の答えは前作「ハンニバル」で示唆されていたので、やはり「ライジング」はなくても良かったかもしれません。世界中のレクターファンへの、トマス・ハリスからのプレゼントだと思っておきましょう。
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ハンニバル・レクターが、どのようにしてハンニバル・カンニバル(人食いハンニバル)に変貌していったのかという、長年にわたるファンの疑問に答える作品として注目度が高かったが、どちらかというと、ハンニバル・カンニバルの第一歩という感じがする。物語の中心であるハンニバルの青年期。犯罪を犯す前から彼の精神は既にハンニバル・カンニバルなのだ。幸せな少年の心の変容を捉え切れなかったのは残念だと思う。主演のギャスパー・ウリエルの好演で救われた作品だといえるだろう。
戦乱の中、動物と化した餓えた男たちの血となり肉となってしまった妹ミシェル。彼女を救い出すために始まった人食いだったのだろうか。それともただの復讐劇だったのだろうか。私には前者だったような気がする。
それにしても…なぜ日本?何か理由があったのかもしれないが、中国の小物までごちゃ混ぜになっていて興ざめだ。レディ・ムラサキって…室町時代の芸者の浮名じゃないんだからさぁ…。と、ハリウッド特有の誤った日本観が少々気になる作品である。
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夫を亡くしたばかりの若い奥さん(コン・リー)の
存在で、思っていた以上に楽しめる映画だった。
独りになって淋しく生活しているところに、
若くてきれいな青年がやってくるんですからね。
しかも、自分のために殺人まで犯してしまうし、
こりゃハンニバル君に手を貸してしまうだろうな展開!
復讐劇だけ見ていると、あまり面白くなかったが、
美しい未亡人ムラサキのおかげで2倍楽しめました。
それにしても、あのレクター博士がカリスマ性に
乏しい普通の青年だったなんて淋しいものが・・。
レクター博士の心の奥に隠されていたものが、
幼少のころのトラウマだなんて拍子抜けでした。
ハンニバル〈上〉 (新潮文庫)
映画を見てから読んだが、かなりの違いがあったので驚いた。
しかし私は小説の方が秀逸だと思う。
なぜなら、映画のレクターはかなり超人的に描かれているように思うが、小説では人間的な部分も垣間見られ、魅力を増しているように感じたからだ。
レクターの生い立ち、妹、怯え、そして正義感、それらが彼に存在感を与え、官能的ですらある。
クラリスとのエピソードも、映画よりもまさに彼らしいと思う。
レクターファンにはたまらない小説である。