地獄篇三部作 (光文社文庫)
■大西巨人の未発表小説が単行本化された。「第一部笑熱地獄」では敗戦直後の日本文壇の状況がシニカルに、パロディを交えて描かれる。「第二部無限地獄」は地方都市に住む29歳のインテリ編集者と17歳の少女との恋愛を描き、男の罪ある過去の恋愛を回顧する。「第三部驚喚地獄」は「第二部」の小説を架空の文芸誌が紹介するという内容。いずれにせよ一筋縄ではいかないただならぬ作品集。
神聖喜劇〈第1巻〉 (光文社文庫)
軍隊の話ということで少し気が重かったんだけど、表紙がきれいなのと字が大きいことに惹かれて読んでみました。
出だしの文章が硬くって取っ付きにくい印象を受けるかもしれませんが、読んでいくとわくわくして続きを読まずにいられなくさせる小説です。主人公がピンチに陥っては切り抜けたり推理小説っぽいところがあったりして、軍隊の話というよりはエンターテイメントとして肩の力を抜いて楽しめます。
この小説の雰囲気をわかりやすく言うと、原のハードボイルドな探偵や村上春樹の小説の主人公を徴兵して軍隊に入れたらこんな感じになりそうです。主人公の格好よさもこの小説の魅力でしょう。
全5冊でまだ4冊あって毎月発売が楽しみです。
迷宮 (光文社文庫)
本作品は、推理小説という枠組みをとりながら、人間の老いと創造力というもの、安楽死あるいは尊厳死に対する是非というものを、考えさせられます(森鴎外『高瀬舟』の影響もあるのでしょう)。最後は、第四章『幽霊をめぐって』からの連関が素晴らしく、文字通り「うまくやられた!」的ではあるのですが、単なる推理小説を超えた、哲学的な問いを読者に残すところが、筆者の手腕であり、純文学作家たる所以です。
また、明らかに筆者が投影された人物である皆木旅人が、イプセンを始め、様々な作家や歌人や思想家について言及するところは、文学的に勉強になります。特に、第四章において、皆木が、「言論・表現公表者」の在るべき姿勢について言説する箇所は、多少なりとも文学に関心を持つ人は、必ずや読んでみるべきだと思います。
つまりは本書は、人間的な、文学的な、未完の問いを読者に残す好書です。