堕落論 (新潮文庫)
坂口安吾はよく太宰治と一緒にされ「無頼派」などと呼ばれている。しかし、太宰の堕落と安吾の堕落はベクトルが全然別の方を向いている。ひとことでいえば太宰は死を、安吾は生を指向している。
「生きろ」。
これが安吾のメッセージである。大義のために美しく死ぬのではなく、たとえ堕落しても、醜くとも生きることを安吾は主張する。これはまさしく戦後日本の原点にある健全な生の思想である。終戦直後、多くの日本人が同じことを考えたのではないだろうか。私はここに焼け跡の上にある青空を見るのである。
墜落遺体 御巣鷹山の日航機123便 (講談社プラスアルファ文庫)
私は日航機事故関連の書籍は数冊読みましたが、興味はなぜ日航機が墜落したのかという原因の方にばかり向いていました。「あかね雲」を読んで遺族の苦しみにも目を向けるようにはなりましたが、遺体確認作業の壮絶さを想像したことは全くありませんでした。
著者が現場で陣頭指揮をとっていただけのことがあって、内容は非常に衝撃的で、遺体確認作業の悲惨さをそのまま伝えてくれています。一旦航空機事故が起きれば、このような悲劇が待っているのだということを、世の中のもっと多くの人々が知るべきだと思いました。
医師や警察官と言えば、不祥事で騒がれることがあってもこのような大変な苦労を語られることがほとんどありませんので、そういう意味でも彼らの誠実な仕事ぶりに頭が下がる思いでした。もし自分の家族が確認される遺体の中に入っていたらと思いながら読むと、一気に最後まで読むことが非常に難しい本でもありました。
<エンタメ・プライス>ジャンボ 墜落/ザ・サバイバー [DVD]
アン・ハサウェイ主演のミステリー「パッセンジャーズ」の元ネタではないでしょうか。航空機墜落事故をめぐる女性の話で、墜落現場の再現や最後の驚愕のオチも同じ。本作での不満は、少女の亡霊が事故関係者を死に陥れる理由が分からないこと。原作を読めば判明するのかなあ。
ジャンボ・墜落 / ザ・サバイバー [DVD]
1981年製作。この時代日本においては、1982年2月に日航機羽田沖墜落事故が起こっており、タイミング的に公開は不可能であったろう。
虚構と現実は全く別物ではあるものの、明確な人災である点が世間を震撼させた上、本作の実に緻密な事故現場の描写もまた仇になったものと思われ未公開作品だったわけだが、このほど漸くソフト化されたのだ。
冒頭の、「だるまさんが転んだ」をして遊ぶ子供達の意味深な描写の直後、文字通り叩きつけるように、離陸直後の旅客機墜落シーンへと移る。迫り来る機体から逃れる地上の人々、大破炎上する機体、パニックの中奔走する消防隊や救急隊、ワラワラと集まるマスコミと、墜落シーンの迫力は実に見ごたえがある。
更に翌日、事故現場のセットや小道具の作り込みは実にリアルに凄惨であり、心が痛むと同時に業の深い嘆息を禁じえない。こうした、大小機体の残骸はラストまで出ずっぱりであり、全編の八割は特殊美術の良い仕事を堪能できるという、その点だけでもお買い得だと思う。
おそらく、制作費の殆どをカタストロフの描写に突っ込んでいるのであろう。その分、乗客300人分の浮かばれない霊魂が巻き起こす心霊現象描写は、ローコストハイパフォーマンスを要求されるわけだが、これもまた、良い仕事をしているのだな。美人霊媒師ホッブスのトランス状態や、ポルターガイストなどの心霊現象には、常に墜落シーンで使われた乗客たちの阿鼻叫喚の悲鳴のSEが襲い掛かる。怖いちゅうより悪趣味なのだが、情感は満点。
そして洒落にならない事故の真相(映画のオチではない)と。プロットやテンポに若干の古臭さは感じられるのは致し方ないが、じっくりと見せる逸品である。