アレルヤ (双葉文庫)
理想も願望も愛情も。生産行為という足かせは、図らずもボクらを拘束する。賢く拘束される道を行くか?生産を虚脱と同等に貶めるか?
そんなヘルタースケルターのど真ん中に入り込んだとき、きっとこの本は何かを教えてくれる。
考えるな!声を出して、歩け!そしてその発声と鼓動に集中しろ!
ロックに美しくも意味がなかった頃に戻せ!
いつか虚脱さえもリズムを刻みはじめるのだろう。
「アレルヤ」はもう次の小節に進んでいる。
終わりまであとどれくらいだろう (双葉文庫 さ 29-1)
ずい分長い間待たされたけど、桜井鈴茂の第2作がやっと発売された。「アレルヤ」から2年半、僕はずっと桜井鈴茂の本を待ち続けた。今回は6人の様々な人々の日常の断片が描かれている。と言っても、そこに盛られた毒はハンパじゃなかった。みんな何かにハマり、何かを諦め、何かと戦い、何かにすがる。何かに対してはクズみたいに邪悪な自分と、何かに対しては天使みたいに純粋な自分を抱えてる。 読みながら僕は吉田修一の「ランドマーク」や 村上春樹の「アフターダーク」と同じような感触を思った。でも彼らの描いた世界は底なし沼のように僕をダークな気持ちにさせたけど、この本を読んだ後には不思議な光がさしている。もしくは角田光代が帯に書いているように「びっくりするほど美しい風景が見えた。」自分の中の悪魔と天使の戦いはづっと続く。どこかで戦争が起きようが、大地震が来ようと、気づけば僕らは日常という戦いに戻っている。そう、この本を読んで僕は、今の僕らにとって「日常」こそが本当の戦いなんだと感じた。そして「終わりまであとどれくらいだろう」 と僕も思う。でも多分、終わりはこない。 だからみんなに天使に勝って欲しいと思う。少なくとも負けないで欲しい。
冬の旅 Wintertime Voyage
一度目読むと重たさが心を支配する。しかし、もう一度読まずにはいられない。そして、読み終えた後に、人生について考えることを強くせまられる。
もちろん哲学書ではない。しかし、下降線を辿る生活を綴った本書こそ、2011年を生きる、42歳の心を捉えた。
前半戦を引っ張りすぎた男の一人として、それを美学と思い込もうとしていた男の一人として、「冬の旅」は、後半戦と向き合う覚悟を与えてくれた。
小説への敬意、自分の心への誠実さを感じさせる文章。
詩のような、音楽のような文章。
傑作である。