邂逅の森 (文春文庫)
まるで息遣いが聞えてくるような、狩猟の場面。大自然の中で繰り広げられる人と獣たちの命の攻防。読んでいて、思わず息を呑みます。自然の大きさに比べたら、人の何とちっぽけなことか!しょせん、人も自然の一部でしかないと、思い知らされます。「マタギ」としての富治の人生、そしてその彼の壮絶な人生をも上回る、富治の妻イクの人生は、読む者に感動を与えます。富治の問いかけに対する「山の神」の答えは・・・。イクはすでにその答えを知っていたのかもしれません。場面、状況の描写、人間の心理描写、内容の面白さ、どれをとっても申し分のない作品でした。
山背郷 (集英社文庫)
一人の得がたい作家が誕生した。解説で池上冬樹氏がこの魅力的な短編群が生まれた経緯をるる述べているが、今回は氏の説に全面的に賛成する。熊谷達也はこの短編群でひと皮剥けたのだ。
熊谷達也のデビュー作「ウエンカムイの爪」は、フレッシュな面もあったが、中盤のたるみ等、まだまだという感じがあった。しかしこれは違った。描写の緻密さ、浮き上がる人物像、「失われた、自然と人間との関係・闘い」というテーマの普遍性、唸る事しばしば。たった四年ほどで作家というものはこれほどまでに成長するのだ、と嫉妬さえ覚えた。
特に私は『潜りさま』『メリィ』『川崎船』がお気に入り。
虹色にランドスケープ (文春文庫)
短編が7つで虹のように一つの物語になって行くという構成.第一話だけでも独立できるような仕上がりである.随所に現れる二輪の記述は長く乗ったライダーならではの記述だと思うが,片岡義男が単なるオートバイの小説で終わっているのに対し,こちらは人生を語っている.
邂逅の森
東北の狩猟で生計を立てる「マタギ」の物語。作者ならではの東北の雄大な自然を満喫できます。東北の自然は本当に神がかっていて、自然の力強さを我々に見せてくれます。秋田、山形という設定も地元の私には強く訴えかけてきます。
本作の凄さは自然賛歌だけの物語ではなく、一人のマタギの人生を描ききっているところにあるのです。その人生もすざましく濃いものであります。富治の辿ってきた人生、出会った人々、恋愛、全てが読者の心に響きます。本当に良い読書体験でありました。
人間を自然の一部分として捕らえた時に、自然と対峙しなければなりません。その経験は現在では殆ど体験することが出来ません。本書に触れることでその一端を垣間見ることが出来ます。
相剋の森 (集英社文庫)
「漂泊の牙」で開花し、「邂逅の森」で完成した熊谷文学が何故に…?
残念な作品です。「…半分殺してちょうどいい」というテーゼを一心に、なぜ著せなかったのであろうか。多くを語らんばかりに、話がボケてしまったように感じました。
松橋富治の話は、別の場を設けて欲しかった。