情報ネットワークで結ぶシルクロード―国際開発協力にみる現代中央アジア
なかなか中央アジア地域の事情研究、特に私のようなIT事情を知りたい人間にはなかなか的を得た研究書が見つからないでいたが、これはまさにズバリの書籍。
全体の構成としては先ず中央アジア全体の概況を述べた後、各国の個別事情について記述されている。
資源国であるカザフスタンやウズベキスタンは比較的裕福だが、高地のキルギス、独裁のトルクメニスタンなどは貧しい。しかし総合的に設備が不要と言う意味で有線の電話以上に携帯電話が普及していたりする。その一方、PCインターネットはいまだにダイヤルアップ接続が主流。このため動画やウェブサーフィンでの利用は少なく、ショートメッセージなどの利用が多い。
ソフトウェア技術者である関係上、ネットワークインフラは関わるのは難しい。ソフトウェアからの中央アジア諸国へのアプローチと言う点ではこうした制限の中での利用、文化的背景からの利用を考えていく必要がある。
あと、日本企業の進出はまだ少ないが、中央アジア民族は日本人と人種が近く、日本語学習熱は決して低くない。文化的コンテンツの面でも面白いアプローチの可能性はある。
ユーラシア胎動――ロシア・中国・中央アジア (岩波新書)
奥付をみて『シベリア抑留』(2001)の著者と知り、現地の
情報通のものだなと思い、軽い気持で読み始めました。しか
し、書かれている内容の重大さに目を見張りました。
ロシア、中央アジア5カ国そして中国を中心とした地域での
最近の変貌が、それらの国が構成する上海協力機構という
地域協力組織、かつてのシルクロード地域で進む交通の整
備と物資の往来そして東への延びるパイプライン網などを話
題の軸としてレポートされています。
著者が言うように「アメリカを通じて世界を見るという惰性か
ら抜け出し、(中略)ユーラシアのダイナミズムに日本が本格
的にかかわることで、この国の時代閉塞の混迷を打破するき
っかけになる」(序章)かは、直ぐに結論が出るものとは思え
ないものの、一度は議論する値打ちのある提案だとは思いし
た。
基本的にはルポタージュなので、深い洞察には欠けるのか
もしれませんが、二百数ページの新書版としては十分な時事
情報と必要な考察が盛り込まれていたと思います。