ドヴォルザーク:交響曲第9番「新世界より」
聴いた感想は、最近の新世界の演奏にありそうなフレッシュな印象をもった演奏というよりは何となく野暮ったい印象の残る新世界といった感じを受けました。
(これは悪い意味ではなく、何か懐かしさを覚える演奏という意味で)
また、録音によるものかもしれませんが、金管はあまり鋭さをもたずどちらかと言えば丸みを帯びた鳴り方をしているので、耳に刺さるような演奏を嫌う人にはこの演奏はオススメではないかと思います。
ライブの録音ですが、全般的にライブにありがちな部分部分を強調した盛り上げ方ではなく、緩急をつけ丁寧に演奏し聴かせる新世界になっているところが素晴らしいと言えます。
大きなクセもないので、初めて聴く方でもオススメできる演奏ではないでしょうか。
感じて動く
佐渡裕さんと実際にお会いした人から勧められて読みました。
指揮者としての考えをオーケストラに伝えるために
どうするか?どのように振る舞うか?何が必要か?
人間は感じたことにしか動かないといいますが、
佐渡さんの過去を通してそれがつまびらかにされていきます。
それを読み解くのがスポーツドクターの辻さんです。
佐渡・辻の両者で往復書簡のように進んでいき
人の心がどのように動く(動いた)のか、
説明も交えながら描かれています。
佐渡さん自身のエピソードの面白さもさることながら、
辻さんの合いの手で感性が紐解かれる部分に
惹かれて読み進められました。
個人的には優雅な指揮者として有名である
カルロス・クライバーのエピソードが好きです。
佐渡さんのNHKでのドキュメンタリーを見た後で、フルで見ました。
少年時代の夢を叶えた演奏にしびれました。
プロやマニアの方からすると意見はあるのかもしれませんが、
本当に全身全霊をかけた指揮による本人の感激がダイレクトに伝わってきました。
仕事で考えなければならない壁が見えたとき、
部屋でこのDVDをかけて「実現のために何を本当にすべきなのか」に集中しています。
ぜひみなさんもご覧ください。
僕が大人になったら (PHP文庫)
僕がよく行くドイツの日本料理店のマスター、Oさん。十数年来の付き合いになる彼には自慢の友人がいる。
それがこの本の著者の佐渡裕さんだ。佐渡さんは友情の証として商売道具の指揮棒に店の名前を書き入れてOさんに贈り、それはいま大事に額に入れられて店の壁に飾られている。
自分はクラッシックには明るくないので指揮者としての佐渡さんのキャリヤについてはほんの少し知っているだけだった。
ただOさんからよくその気さくで明るい人柄について聞かされ、何だか佐渡さんのことをとても身近な存在に感じていた。
この本を読んでOさんの話が全くその通り、いやそれ以上であることがよくわかった。
情熱的で天真爛漫を絵に描いたような性格。世界各国行く先々で友人の輪を広げ、指揮棒を握れば本場ヨーロッパの人々から満場の拍手で迎えられる。
子供の頃からの指揮者になる夢を見事に実現し指揮は自分の天職だと言い切る。
超過密スケジュールの仕事の合間を縫って大好きなゴルフをやることも欠かさない。一度などはゴルフの練習にハマりすぎて3日で2,500発も打ったというのだから、佐渡さんの物事へのこだわり方は常人の域をはるかに超えている。
食べて飲むことも大好きで好物はカツカレーというのもいかにも庶民的で素敵だ。
基本は標準語のエッセイだけど、調子にのると地の関西弁がポロリと出てしまうところも憎めない。
日本人には珍しく実にスケールが大きくて周囲の人を惹きつけてやまない方だと思う。
本書に登場する楽団の名前や曲名についてはクラッシック音痴の自分には残念ながらピンとこなかったけれど、最後の方に書かれた佐渡さんの次の言葉には心を鷲掴みにされるようなインパクトがあった(以下原文まま)。
「どの世界でもそうだろうが、ものすごく大事な才能とは、「好奇心・探究心・勇気」という三つの言葉だ。
まず「おもしろい」と思うことに出会うこと。次に、それをどこまでも突き詰めてみたいと思うこと。そして、それを試そうとする勇気。
このどれが欠けても、才能としては十分でない。おもしろいと思えることが、周りにいっぱいあると思えるかどうか。
また、人間一つの心だけでなく、人それぞれ、いろんな思いがあることを踏まえたうえで、違う世界にも、大いに興味を持っていきたいと思う。」
うーん、それこそ額に入れて壁に飾っておきたい名言だ。
...いつかOさんの店でバッタリご本人に会えることを夢見て。
僕はいかにして指揮者になったのか (新潮文庫)
この本には佐渡さんが子供のころ、何故、クラシック音楽に惹かれたのか、そして、どんな青春を送ってきたのか、また、バーンスタインとの出会いと哀しい別れまでが書かれています。中盤からは涙なしに読むことはできません。人間って、みんな自分一人の力で生きてきたように思っているのですが、本当は沢山の人たちのおかげで今日があるんだということをこの本は語っています。感謝の気持ちを忘れない佐渡さんらしい一冊です。もし、あなたが佐渡さんの音楽を好きだと言うのなら、一度はこの本を手にとってご覧になることをお勧めします。